Short Story


Cindy's first job

 


リキュール諸島、偉大なる航路に浮かぶ島。
美味しい果物や米がいつだって旬で獲れる秋島だ。
海賊専門の泥棒として一人旅を始めて数年いろんな島を渡り歩いてきたが、この島の酒は美味い。

酒の島として名高いこの島、特に首都であるガレンシアは観光地としても人気が高く、海賊や海軍、立場を問わず多くの旅人たちが訪れる。まだ日が高く昇る今もきっとどこかで宴会が行われていることだろう。


ここはそのガレンシアの中心街から少し外れた所にある山の奥地。元々人と酒を飲み交わすのが好きでリキュール諸島に訪れたことをきっかけに、二年ほど前から俺はここを拠点として活動している。少し下れば楽しそうな賑やかな声が聞こえてくるが、山の中に響くのは動物達の生活音のみ。時間も忘れ一人になれる、我ながら気に入ってる場所だ。

そんな俺のアジトに、どうやら一人のお客さん。
張り巡らせた罠を猫のようにくぐり抜けここまでやってきたらしい。


「さっすが、ゴリラも仕留める俺の罠を全部回避してくれちゃって」

がさっと木の上から降り立てば、よく知ったブロンドヘアがぴくりと揺れる。上から来るのは予想外だったようだ。


「えるりんの方から来てくれるなんて珍しいじゃん?
 こんな所に何の用……って」

言いかけて、止まる。黒猫のエル。知り合って以来、何かと手を組むことの多い殺し屋だ。確かにその彼女には違いない、違いはないが。俺と二人で会うとき、つまり黒猫として活動している時にはいつも頬に入れている赤いライン、彼女のトレードマークが今日は見えず、代わりにマスクで口元を覆っている彼女の姿がそこにあった。


「あれ、看板娘ちゃんの方??」

「もっすん…」

「わっ、ひどい声」


てっきり次のターゲットの話かと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。じゃあ益々、なぜこんなところに来たのか。悲痛な程に枯れた声を聞けばその答えも見えた気がした。どう話そうかと決まり悪そうに悩んでいるっぽい彼女を、立ち話もなんだしととりあえず家に招き入れた。



 
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