残暑見舞い
(榎さんへ)
近所の夏祭りにやってきた作兵衛は行きかう人ごみをかき分けて進んでいた。
作兵衛の手は女の子の手を引いている。女の子の名前は名前。作兵衛の従兄妹だ。名前の親の都合で夏の間、作兵衛の家に住むことになった。
以前から何回か会ったことがある二人は本当の兄妹のように仲が良かった。高校生である作兵衛は夏休みなのでほぼ毎日名前の遊び相手になっている。
「絶対手離すんじゃねぇぞ」
「うん」
返事をした名前の手を繋いでない方の手は綿菓子の入ったキャラクターが描かれた袋をがしっかり握りしめている。作兵衛が名前に買ってあげた物だ。
「さくにい、おみせみたい」
お面を売っている屋台やヨーヨー掬い、時間帯が夜なので光るブレスレットを売っている屋台は名前にとって魅力的な屋台だ。
「後でゆっくり見ような」
「えー!!」
お願いを聞いてくれると思っていた名前は不満げな声をあげる。
「そろそろ花火が上がるけど見れなくなるぞ」
「はなび!」
名前不満げな声から一転嬉しそうな声をあげる同時に大きな破裂音、夜空が光る。
「あー…始まっちまったな」
空を見上げれば花火が打ちあがっていた。辺りには立ち止まって見ている人達がいる。作兵衛は名前の手をひいて通行の邪魔にならない場所まで行き立ち止まる。
名前は口をぽっかり開いたまま花火に釘付けになっている。
ついでにと作兵衛は名前を抱き上げた。
「どうだ?」
「すごい!さっきよりちかくなった!!」
きゃっきゃっと喜ぶ名前は次々と打ち上がる花火に手を伸ばして掴む仕草をしている。
「さくにい!はなびきれいだね!」
「だな」
喜んでいる名前を見て連れてきてよかったなと作兵衛は花火を見ながら思った。