ずっといっしょ
(榎さんに捧げます)
「ただい…」
「名前ねぇー!!!!!」
玄関を開けた瞬間突撃されてただいまと言い終わる事が出来なかった。持っていた通学鞄を床に落として突撃してきた身体を受け止める。
「左門どうしたの!?」
えぐっえぐと私の制服に顔を押し付けて泣いている左門。左門は家の隣に住んでいる小学生一年生で私より四つ下の男の子。私の事を名前ねぇと呼んでくれる可愛い可愛い弟分だ。
いつも笑顔でいる左門が大泣きしている。何か学校で嫌な事があったのかな…。
「おり姫と、ひこ星が一年に一回しか会えないって本当か?」
「本当だよ」
明日は七夕か。思いながら答えると顔を上げた左門の目からまた涙が零れる。
「左門!?」
「いやだ!二人可哀相だ!!!」
なるほどそれで泣いてるのか。織姫と彦星は星だから一年はあっという間でほぼ毎日のようにいちゃついてるんだよ…なんて左門の夢を壊すような事は言わないでおこう。
「名前ねぇ…と、はなれるのいやだ…っ!!」
「私と?」
織姫達の話からどうして私と離れるって発想になるのか…。理由を聞こうにも左門は大泣きしてるので聞くこともできない。後で左門のおばさんに聞いたら織姫を私に彦星を左門自身に重ねてたんじゃないかとか。左門可愛いって思ったのは言うまでもない。
この時点で理解してなくて、否定しても嫌だと言われ泣き続けている左門を私はどうすれば泣き止んでくれるか悩んでいた。悩んだ末に七夕が浮かんだ。
「ねぇ左門。信じられないなら短冊にお願いしたら?」
「…おねがいしたら名前ねぇとずっといっしょにいれる?」
「うん」
だから泣き止んでほしいなと頭を撫でれば、じゃあ沢山お願いするって涙目の左門は騒ぎ出してた。
――あの頃の左門可愛かったなぁ。
「何笑ってるんだ?」
笹に短冊を付けながら笑っていたらしい。左門に指摘された。
「んーちょっとね」
付け終わって左門の方を見れば彼はとっくに短冊を付け終わっていたらしくこっちを見ていた。
あれから数年、私は社会に出て左門は大学生。月日が流れるのも早い。可愛い幼い顔つきは凛々しくカッコいい部類に入る顔つきになった。背も私を見上げていた左門が今では私を見下ろす側になっている。
あの頃の可愛い左門がたまに恋しくなるのは内緒だ。
「まだ一緒にいられてるなって思って」
考えていた事と違う事を口に出す。左門が拗ねた表情になる。
「…名前は僕と離れたいのか?」
変わった事がもう一つ。名前ねぇって呼ばれていたのがいつの間にか呼び捨てに変わった事。
「まさか」
今書いた短冊の願いを無かったことにはしないよ。
よかったと笑う左門の笑顔はあの頃の面影は変わらず残っていた。