小説 | ナノ

3〜彼女のバヤイ〜


私が富松作兵衛の事を富松と呼び始めたのは忍術学園に入学してしばらくしてからの事だ。

入学前までは富松の事はさくちゃんと呼んで富松は私の事を名前と呼んでいた。

富松と呼ぶようになったのはくのたまの友達が忍たま達を呼び捨てにしているのを聞いてると自分が男の子を名前でちゃん付けで呼んでる事がだんだん恥ずかしくなったからだ。


この時くらいから私は富松が好きって自覚していて呼び方を変えたら富松が私の事を意識してくれるかもという魂胆もなかった訳ではない。

結果として魂胆とは真逆になってしまったのだろうけど。

初めて富松と呼んだ時から富松は私の事を苗字と呼び、不機嫌な態度で接するようになった。それに釣られるように私も喧嘩越しに接するようになって今に至る。

その時から富松が笑った所見てないな…。

閑話休題。

富松と別れた後、私は裏山で迷子捜索中だ。

「神崎ー!次屋ー!いたら返事しなさーい!」

大声で叫ぶ。迷子捜索は根気が必要だと何回も手伝ううちに学習した。返事は返ってこないけれど何回も叫び続ける。

空が赤く変わり始める。そろそろ出て来てくれないかな。

ガサッ

近くの草むらが音をたてる。

「神崎?次屋?」

それとも別の何かか。やっばいなくないとか武器持ってきていないんだけど…。

一瞬不安になったが出て来たのは目的の人物その1、次屋だった。

「お、苗字。お前も迷子か?」

「いやいやあんたが迷子でしょ」

この無自覚方向音痴が!と富松が怒鳴る気持ちが凄く分かる。

「俺は迷子じゃないぞ。迷子になった作兵衛を探してるんだ」

「だから…まあいいか。その富松が探してるよ」

これ以上話してたら堂々巡りで話が進まない。だから一緒に行こう?と逃がさないように次屋の手を握る。

「苗字も富松探してるのか。仕方ないな一緒に行ってやるよ」

仕方ないって思うのはこっちの方だけどな…。

prev / next
[ back to top ]