小説 | ナノ

お酒の話

「なあー名前ー」

酒の魔力のせいで子どものように上機嫌な竹谷とそんな竹谷から抱き着かれて抱き枕状態になっている名前の機嫌は彼と対照的に低く悪かった。名前は酒を飲んでいないせいもあるが、カップルがやるようなことが大の苦手である彼女にとってこの状況は不本意なものだ。それでも普段のように一蹴して無理矢理逃げ出すようなことをしないのは竹谷が完全に酔っぱらってしまっているせいだ。一応は常識を持っている名前なので酔っ払いに乱暴なことはしない。というより無理矢理逃げ出そうとしたらさらに面倒なことになりそうだから半ばあきらめているの方が正しいかもしれない。

「名前今日は大人しいなーいつもみたいに逃げないのかよ」

名前の首元に顔を埋めている竹谷が聞いた。吐息が首に当たる。くすぐったくて名前は軽く身動きをする。

「酔っ払い相手に抵抗するなんて面倒だからだ……明日になったら覚悟しとけばか竹谷」

「おれは馬鹿じゃないぞー名前」

ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。けれど加減はしてあるのか苦しくはない。普段は絶対ない甘い雰囲気に名前は複雑な気分になっていた。
酒を飲んでいない自分すら酔ってしまう感覚に陥ってしまう
。そうでも思わなければ自分に抱き着いている竹谷の頭に触れてしまった言い訳が出来ない。

「めずらしいなーお前から触れてくれるなんてよ」

「……私も酔ってるんだ」

ごわごわとした竹谷の髪の感触を味わいつつ頭を名前はゆっくり撫でる。

「名前もかよーさっきからおれのこと酔っぱらい言ってたのによ」

「うるさい」

「けどきもちーからゆるしてやるよ」

やべえおれ死んでもいいかもと嬉しそうに竹谷は名前から竹谷の顔は見えないが笑っているのは吐息の感覚で名前に伝わった。

「もっとなでてくれよ」

「……今日だけだからな」

催促をされて、そのまま撫で続ける名前。それは竹谷が眠りに落ちるまで続けられた。


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