小説 | ナノ

バレンタインの話


「さて竹谷今日は何の日か分かるか?」

一人暮らしの竹谷家に遊びに来て自然な動作で一人ゲームをし始めた名前が唐突にいつものことだからとベッドに寝転がり雑誌を読んでいた竹谷に聞いた。

竹谷が雑誌から名前の方に視線をやると名前はテレビの画面を見たままだ。竹谷は雑誌を閉じて体を起こしながら考える…というより今日は2月14日と知っているので考えるまでもなかった。

「バレンタイン…リア充の日だな」

リア充の日と付けたのはその方が彼女の求める答えだろうと思ったからだ。竹谷の予想通り、名前はゲームを中断して竹谷に向き合った。その顔は満足そうで頷いている。

「そうリア充の日だ!リア充なんか爆ぜたらいいと思う!」

「…だな!けどいっそのことリア充の日に乗って名前が俺にチョコくれるって展開もありだ…」

「それはない」

竹谷が言い終わる前に名前はきっぱり言い切る。

「ヒデーなおい。夢くらい見させてくれよ!」

「…毎年同じことやっているのだから諦めろ」

名前から呆れ口調で言われて、そうだけどさ…と竹谷はまるで子どもが拗ねているような言い方で答える。

竹谷と名前が付き合い始めたのは高校の時。それから恋人がやりそうな定番物全般が苦手な彼女は、リア充爆ぜろと言いながら避けている。

バレンタインもその一つに入り竹谷は名前からチョコをもらったことはない。一回だけ駄菓子チョコをもらったことをカウントしていいのならば別だが…実際もらった竹谷はとても喜んでいた。

「けど俺は名前からチョコ欲しい!また駄菓子チョコでもいいから…なー駄目か?」

「…駄目」

これ以上反論は聞かないという風に名前はゲームを再開した。

(…これは今年もチョコもらえないな)

竹谷は残念そうに深くため息をついた。

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