13〜彼女のバヤイ〜
「悪い。俺に抱きしめられるの嫌…だよな」
私をいきなり抱きしめた富松がぼそっと言った。いつもの富松とは違う弱い小さな声。
いきなりだったからびっくりしたけど嫌ではない。むしろ嬉しい。嫌われているかもと思っていたのに…。
「…え、あ」
どう答えればいいか分からない。言葉が見つからない。黙っているのを悪い方向にとったらしい富松が私から離れようとする。
ああ、これじゃあいつも通りになってしまう。
『素直になりなさいよ』
この状況を生み出した元凶である彼女の言葉が浮かぶ。富松が名前で呼んでくれたんだ。私も少しくらい素直になってもいいよね…?
「嫌じゃないよ」
言い訳しないと素直に言葉を出せないって…と自分でも思うが仕方ない。こういう性格なのだ。
「むしろ…嬉しい…」
恥ずかしくて富松から視線を反らしたと同時に温もりが戻ってきた。
「…よかった」
また抱きしめられて心底ホッとした声が返ってきた。
…よかった今度は間違えなかった。
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