小説 | ナノ

10〜富松作兵衛のバヤイ〜


「苗字!何処だ!」

大声で名前を呼び続けながら森の中を探す。

早く見つけなければと気持ちが焦る。迷子共を探す時とは全く違う焦りだ。

あの時と同じように今頃泣いてるかもしれない。あいつ以外と怖がりなんだよ。

まだ俺達が学園に入学する前の話だ。今のように険悪な雰囲気ではない時で俺は苗字を名前と呼んでいて苗字は俺の事をさくちゃんと呼んでいた。

ある日俺と苗字は近所の子供達と隠れ鬼をしていた。鬼は他の子で以外を見つけたが苗字が中々見つからなかった。皆で探しても見つからず夜になってしまい、心配した苗字の両親を含めた大人達も探した。

「子供は家で待っていなさい」

と言われて一度家に帰ったがじっと待つ事が出来なるわけがなく、黙ってこっそり森に戻って苗字を探していた。



そして時間はかかったが苗字を見つけた。

『さくち…ゃん』

苗字は俺を見た瞬間にボロボロと泣き出した。

『な、なくんじゃねぇ!』

普段泣いてる苗字を見たことがなくて、どうしたらいいか分からない。とりあえず慰めるために頭を撫でたり軽く抱きしめたりした。

『こわ、かった…よ…』

ぎゅっと俺の背中に回った苗字の腕の力が強まる。

『おれもこわかった』

もし苗字が熊にでも襲われたりしたら?怪我でもしてたら?もしも死んじゃったりしてたら…?

探してる最中に悪い方向に考えてしまって怖かった。

苗字が無事でよかった…!

『さく…ちゃんないてるの?』

『おれがないて…?』

俺の顔を見て苗字が言った。自分の頬を触れば確かに濡れている。

「なかないでさくちゃん」

自分も泣いてるのに俺を慰めようとする苗字にますます泣きたくなる。涙が止まらない。

結局大人達が発見してくれるまで俺達二人ともわんわん泣いてその後二人揃って叱られた。



「苗字…名前!どこだーっ!」

あの時と同じように絶対俺が見つけてやるから泣くんじゃねぇよ!

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