小説 | ナノ

伝わる体温


突然手を繋ぎたくなった。

僕達はお使いの帰り道の途中。街道には僕達以外にいない。絶好の機会だ。

衝動のままに自分の手を僕の横を歩いている彼女の手に触れさせようとして止める。

いきなり手を握ったら彼女がびっくりするのではと思ってしまった。

名前ちゃんは臆病なところがあって驚いたら固まってしまってそのまま暫く動かなくなってしまう。

僕の欲求のために驚かせるのは可哀相だ。かと言って「手繋いでいい?」と聞いたら混乱させてしまうかもしれない。けど手は繋ぎたい。どうしよう。

ダメだと思っていても思考の迷路に迷い込んでしまう。

「不破君?」

立ち止まって俯いていたらしい。名前ちゃんが僕を呼ぶ。顔を上げれば隣にいた名前ちゃんは僕の数歩前にいた。

「どうかしたの…?」

「何でもないよ」

ごめんねと言ってまた横に並ぶ。まだ納得していない彼女に行こうと言えばまた歩き出す。

ごまかさず正直に話してみたらよかったのかな。そうしたら手を繋げたかも…。

「不破君」

「どうしたの?」

「あの、悩みあったら相談にのるよ?」

心配してくれてたんだ。嬉しさと自分の欲求で悩んでいたので心配させて申し訳ないなと二つの気持ちが入り交じる。

「え、あ、たいしたことじゃないんだけど…。手繋いでいいかな…?」

言ってしまった。彼女はどんな反応をするだろう…。

「いいよ」

「いいの?」

「うん」

僕に片手を差し出す。彼女の頬は赤い。僕はその手をとった。



伝わる体温
(…不破君手温かいね)
(名前ちゃんも温かいよ)
(緊張してるから…)
(…僕も同じだよ)

prev / next
[ back to top ]