その他パロ | ナノ

ちびちゃんとバレンタインデー04


「おいしー!」



初めてつくった南蛮菓子を、凜ちゃんはおいしそうに食べてくれた。




「……どうしよう」

一人ぽつん、と校庭の隅に座り込む。
さっき凜ちゃんからちょこれいとをもらって食べた場所。

日は大分傾いてしまったからここも周囲と同じように冷えてきていた。


けど、今は。



「……すきなひと、」


好きな人にちょこれいとを贈る。
それが南蛮の祭り、ばれんたいんだと、凜ちゃんは言った。


凜ちゃんに「好き」と言われて、すごく嬉しかった。
私も凜ちゃんが大好きだし、一緒にちょこを作って食べたときは本当に楽しくて嬉しかった。


だから、それだけで終わると。
私は思っていたのだけれど。


『おねーちゃん、さぶろーのところには行かないの?』


きょとん、と。
私がこの場にいることが不思議でならない、という表情で凜ちゃんは言った。


一瞬でその言葉の意味を理解した私は、自分の顔が熱くなるのを感じて。



「……そういえば、まだちゃんと言ったことなかった、かも」

好き、と。

こんな私を好きになってくれた三郎に、私はちゃんと、言葉を返していないような気がする。


それならば、これはひとつの機会なのかもしれない。



「よし」



行こう。
三郎のところへ。



ああでも、




「受け取ってくれるかしら……」




私が料理下手なこと、三郎も知っているのだ。
凜ちゃんはおいしいと言ってくれたけれど……



「見た目が……」
「見た目がどうした?」



急に割って入った声に、私は声も出さずに振り向いた。


慣れてきた気配を、ようやく感じれる。
これに気付かないなんてどれだけ悩んでいたんだ、私は。

自分に苦笑しながら、私は呼ぶ。


「三郎」





ようやく見つけた彼女は、校庭の隅に座り込んでいた。

そして手元には、ちびが持っていたような包み。


「……嘘じゃなかった、だと……!?」


あの言葉は本当だったのか。
「おねーちゃんにもらうんでしょ」、とちびは言っていたが――



「まさか本当にもらえるとは……!」
「三郎? どうかした?」
「ああ、なんでもない」


あのあと、やっぱり罠なのか本当なのか、勘右衛門の性質の悪いイタズラなのか散々迷ってハチにもうざがられ、ようやく俺は動き出した。

事の真相は、本人に直接確かめればいいのだ。

そう思って、期待半分恐いの半分でおっかなびっくり彼女を探してみたら、だ。



「……これ、夢じゃないだろうな」
「三郎眠いの?」
「………いや、眠くない。大丈夫だ」

むしろ、今までにないくらい目が冴えている。
だって! 何度もいうが、まさか本当だと思わなかったんだ!!


「これ、お前がつくったのか?」
「……うん」


本当にうれしくて、渡された包みを見つめながら言うと俯きながら答えてくれた朧。
元気がない。
現在進行形で浮かれている俺には理由がわからないが、とにもかくにも包みを開ける。



「うまそうだな」
「! …っほんとう?」


とたんに広がった甘い香りに一言それだけ伝えれば朧はなにやら泣きそうな顔。

ああ、そうか。


「あんまり得意じゃないって言ってたもんな」


いつだったか言ってたことを思い出して笑うと、うう、と#朧#は唸る。


「味は大丈夫……だと思うけど、やっぱり形が悪くて……」


ごめん。
しょんぼりと肩を落とす彼女。

俺は、それに笑みを深くした。


「いいよ。お前ががんばって作ってくれたんだし、おいしそうだし」


くれたってことは、つまり。
そういうことだし。


「……凜ちゃんから、聞いたの?」
「おお」
「っ!」
「逃げるなよ」


おそるおそる俺に「ばれんたいん」のことを窺う彼女。
是と答えれば、すぐに逃げ出そうとした。
まあ、捕まえたけど。


「なあ朧。これくれたってことはさ」
「っわ、わかってるなら聞かないで……!」
「俺はお前から聞いてみたい」

せっかくなんだし。


意地悪く笑ってやると、朧はまた泣きそうな顔。
ああ、あと照れている。顔赤いし。


朧は俺に手を掴まれたまま動かない。
それとも動けないのか。

まあ、いいや。



「朧」



そのまま俺は手を引いて、自分の腕の中に彼女を入れてしまう。



驚いた様子が、顔を見なくても伝わってくる。



そのまま抱きしめていれば、

「……ばか」

小さく聴こえた声。
そしてさらにちいさく、



「すき」



なかなか自分の心を見せてくれない彼女からの、とてつもない贈り物だった。




嬉しさにうちふるえて、彼女のちょこれいとを食べるまでに時間がかかったのは、また別の話。






オマケ


そして彼女のつくったちょこれいとは歪だったけれど、おいしかった。


(また作ってくれるか?)
(……教えてくれるひとがいれば)
(え、じゃあ今回は?)
(中在家先輩と不破と、……凜ちゃん)
(よしわかった。次は一緒につくろう)
(え?)
(いいか、一緒だぞ。他の誰かと一緒につくるなよ)
(……うん?)

ヤキモチを焼いたのに、朧は気づきませんでした。






prev / next
[ back to top ]