ちびちゃんとバレンタインデー03
「あーはっちゃんとさぶろうだー!」
「お、ちびじゃん!」
「あんまり急ぐと転ぶぞー」
忍術学園の校舎の裏手、二人でなにやら談笑している竹谷と鉢屋を見つけた凜はそのまま二人に向かって走り出します。
手には朧にあげたような包みが二つ。
どちらもあのあと朧と一緒に作ったものです。
「はっちゃん、はいこれ!」
「ん?どうしたんだこれ。すげえうまそうな匂いするなー」
「ちょこれーとだよ!きょうはばれんたいんって言って、すきなひとにちょこあげる日なの!」
「おおーまじでか!ありがとうな!」
きゃっきゃとじゃれあう二人に、取り残された三郎が憮然とした様子で口を挟みます。
「なあ、ちび。俺のは?」
「ないよ」
「はあ!?」
じゃあその手にもってる包みはなんですか!?
という言葉が、三郎の口を通さずとも顔を見ただけでわかるという慌てぶりです。
「だって、さぶろうは朧おねーちゃんからもらうんでしょ?」
「……え?」
「はっちゃんはもらえないかもしれないからわたしがあげるのー!」
「おおー、まさかの上げて落とす作戦!!俺泣きそうだよ!!」
お願いだからそういうことはしまっといてくれるか、ちび。
先ほどとは変わって引きつった笑みで竹谷は凜の頭を撫でます。
その隣で、ものすごく真剣な表情をする鉢屋。
「……いや、待て。早まるな俺。きっとなにかの……そうだ、勘右衛門あたりの陰謀に違いない……!!」
「三郎も苦労してんだな……」
「勘ちゃん?」
「あーなんでもないよ。じゃあそれは誰にあげるんだ?」
良く見れば、こころなし……というより、確実に竹谷が渡された包みよりも大きい包み。
「とーさま!」
「ですよねー!」
満面の笑顔で応えた凜に、竹谷は思わず敬語でさらに返しました。
「じゃあ七松先輩のところに行くのか?」
「うん!」
「それならはやくしたほうがいいぞー。さっき“いけいけどんどんでマラソンだー!”って言って委員会に向かってたから」
「ま、まじでかっ」
「うんまじで」
どこからか覚えてきた単語をたどたどしく使う凜に竹谷は癒されました。
いやまあ、傷つけたのもこの子なんですけどね!
「いけいけどんどんでとーさまのところいくー!!」
「気をつけてなー」
急いで体育委員会の集合場所に向かう凜を、竹谷はにっこりと笑って見送ります。
「すげえ速いな……さすが七松先輩の娘……」
「いやでも、まさか、そんな……!!」
「って、お前はまだ迷ってたのか三郎!!」
同室の不破雷蔵と同じかそれ以上に迷いのたうちまわる三郎を、竹谷は呆れた表情で見つめました。
「……気にせず会いにいけばいいのに」
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