ちびちゃんとバレンタインデー02
先ほどまでいた穴だらけの校庭から移動し、二人は校舎の横にある木の下に腰をおろしました。
今日は冬にしては風もなく、暖かい日差しが降り注いでいます。
ここで朧は凜からもらったちょこれいとを食べることにしました。
「おねーちゃん、おいしい?」
わくわく、といった具合に凜は朧の反応を待っています。
それを微笑ましく思いながら、朧は小さく固められたちょこれいとをひとくち。
「すごく、おいしい……!」
南蛮菓子というものをあまり食べたことのない朧ですが、そのおいしさに目を瞠りました。
「これ、凜ちゃんがつくったの?」
「うん!ちょうじとらいぞーとつくったんだよー!」
じょうずにできたでしょう?
という言葉が顔に書かれているような笑顔を凜は朧に向けます。
眩しそうにそれを見つめると、朧は「うん、とても上手」と小さくまた笑いました。
今日はおねーちゃんよく笑ってくれるなあ。
凜は嬉しくなりました。
そして、じゃあ、もっともっと喜んでもらいたいなあと考えました。
「おねーちゃんも一緒につくろう!」
「え?」
きょとんと、眼をまるくする朧。
驚いている様子に気を良くした凜は朧の手をひっぱりました。
このちょこれいとを作っている間、長次と雷蔵に囲まれてとても楽しくておもしろかったのを思い出したのです。
「まだちょうじたちが食堂でちょこつくってるはずなのー!」
「で、でも……」
けれど朧の表情に戸惑いが浮かびました。
それに首をかしげた凜。
なんで、と言う前に朧は口を開きました。
「わたし、料理はあまり得意じゃないの……」
さっきとは逆に、しょんぼりとした朧。
でも凜は意外だ!と思いました。
手裏剣も体術も、凜の父である七松と同じかそれ以上だ、と周りから聞いていたので、できないことなんかないのだと今まで思っていたのです。
「おねーちゃん、なんでもできるのに?」
「な、なんでもわできないわ……! 特に料理は苦手なの……」
一気に暗くなってしまった朧に、凜は慌てます。
「だいじょうぶ!ちょうじもらいぞーもおしえるのじょうずなの!」
「……そうなの?」
「うん! わたしも教わったのー!」
包みに残ったちょこに朧は視線を落とします。
歪だけれど、とてもおいしいちょこれいと。
「できる、かしら……」
「おねーちゃんならできるよー!」
にっこりと、凜は笑いました。
「わたし、おねーちゃんのちょこ食べてみたい!」
「……ありがとう」
それにまた、小さな笑顔で朧は応えて。
二人は、食堂へ向かいました。
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