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ちびちゃんとバレンタインデー01

「おねーちゃーん!」

朧が忍術学園の校庭をしるしも見ずにひょいひょいと避けながら歩いていると、遠くから幼い声。

「……凜ちゃん?」

ぽつりと朧は呟くと、聴こえていたのかとてもとてもうれしそうに、満面の笑みでこちらに向かってきて――

「わあっ!?」
「……危ないわ」

ぽっかりと空いた穴、穴掘り小僧が作った「落とし穴のトシちゃん456号」に落ちる寸前に、朧が着物の襟を掴んだ。

ぶらーんと小さな体躯がぶら下がり、「おねーちゃんすごーい!」ときゃっきゃとはしゃぐ、凜。

「…よい、しょっ」
「びっくりしたー」

どこまでものんきな様子で、朧に穴の縁まで持ちあげられるとまたにっこりと笑う。

「おねーちゃんありがとう!」
「……うん。でも、気を付けてね? どうも穴掘り小僧がはっちゃけたみたいだから……」

しるしだらけの校庭を見ながらはあ、と朧はため息をつく。
まさに“うきうき”という様子で真新しい鋤を担いでいく所を今朝みたな、と思いだしながら。
これはヘタしたらくのたまにも被害が出てしまうかもしれないし、早めに先輩に報告しておこうか、と考えながら。

「じゃあ、私は行くけど――」
「待ってっ」

そんなことを思いながら踵を返そうとしたとき、今度は静止の声。

なんだろう、と。朧はもともとあまりない表情を少しばかり動かしてきょとんとした表情を作った。


「あのね、あのね、おねーちゃんにこれあげる!」
「え?」


なにやら小さな包み――甘いかおりが漂う、ちいさな包みを差し出す凜。
それによりきょとんとしながらもそのまま受け取る朧。


「ええと…これはなあに?」
「ちょこれいとー!」
「ちょ……?」


聞き慣れない単語に朧の舌はすぐに動きを止めてしまった。
しかしその語感から、南蛮のものかなにか、というあたりをつけることはできた。


「今日はね、ばれんたいんでーっていってね、すきなひとにちょこわたすんだって!だからおねーちゃんにちょこわたすの!」


にこにこ。きらきら。
そんな音が聞こえてきそうな笑顔で凜は朧に言う。

けれどその笑顔も目に入らない様子で、朧は凜の話の中のひとつの言葉をひたすら反芻した。



「……すきな、ひと?」



が、それも結局抑えきれずに零れてしまう。

ようやく凜に視線を移して――そのきらきらな笑顔を見つめて。


「……ありがとう」


ようやく出たちいさな感謝の言葉。
ちいさな笑顔。

それが彼女の精一杯の笑顔だと、凜は知っていました。



「朧おねーちゃんだいすきー!」
「え、きゃっ!」


不意を突くかのように凜は朧の腰に抱きつきました。
驚く朧は、それでも倒れません。

ちいさな笑みを浮かべたままもう一度「ありがとう#凛#ちゃん」と小さく囁いて、凜ちゃんの身体をやさしく抱きしめ返しました。

それがとてもうれしくて、凜ちゃんはもっともっと、きらきらとした笑顔になります。



「はっぴーばれんたいんー!」







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