私の恋愛はなんとなく、という形で終わってしまった。

 始まりは高校1年生の冬。駅前で少しガラの悪い男の人二人組がいて、そのうちの一人にぶつかってしまった時のこと。


「痛ってぇな!」
「! す、すみません!」

 学校からの帰り道、ぼーっとして歩いてたら男の人にぶつかってしまった。男の人は最初は私を睨んだ後、その顔はすぐに下心を含むような嫌な笑みに変わり、私の肩に手をまわしてくる。

「……ふーん、可愛いじゃん。どう? お兄さん達と遊ばない?」
「い、いえ結構です! それより離してください……」
「え〜? じゃあこの腕の落とし前どうつけてくれるの? 痛いんだけどな〜。あーイテテ」

 近くなる距離に嫌気がさして離れるように伝えるも、男の人はわざとらしくぶつかった腕を痛そうにする。そんなに強くぶつかってなかったと思うけど……。とはいえ、ガラの悪い人達相手になかなかそうは言えずにいると、もう1人の男の人が続けて言う。

「ねぇ本当なら慰謝料とか請求するところなんだよ? それを俺達と一緒に遊べばチャラにしてあげるって言ってるんだから優しいと思わない? だから行こう行こう〜!」
「っ……!」

 なんて無理矢理こじつけたようなことを言うんだろう。男の人達に怒りと嫌悪を感じるが、その人そんな私の気持ちは無視して私の背中を押しては歩かせようとしてくる。私は身の危険を感じて、なんとか立ち止まる。

「ちょっと、行かないですよ! だいたいそんなに強くぶつかってないじゃないです……!」

 そして怖いと思いながらも、声を上げてその人達を睨み上げると、その顔は恐ろしいものに豹変した。

「あ!? うるせぇな、さっさと来いよ!」
「やっ……!」

 手首を掴まれて強い力で引っ張られる。なんとか抵抗しようとするも、所詮は私は女。男の人には叶わない。
 ーーああ、なんで今日に限って周りに人がいないんだ。どうしよう、このまま私はどこに連れて行かれてどうなってしまうんだろうか。抵抗は虚しく、無理矢理歩かされているその時だった。


「齋藤じゃねぇか。何してんだよ」

「……!」


 後ろから私を呼ぶ声がした。振り返るとそこにいたのはクラスメイトの摂津くんだったのだ。

「摂津くん!?」
「なんだてめぇ」
「てめぇらこそ何してんだよ。こいつ嫌がってんだろ」

 摂津くんは私を見た後、眉をしかめて男の方を見る。普通なら怖気付いてしまうはずなのに、怖がるどころか男を睨みながらこちらに近づいてくるのはさすが摂津くんだ。そして男達は私から手を離し、そんな摂津くんに近づいては睨め付けた。

「嫌がってないよ? この子が俺にぶつかってきてすげー痛いから、その落とし前をつけてもらうだけだっつの。ガキは引っ込んでろ」
「あ? どこをどう見たら嫌がってないように見えんだよ。つーかぶつかっただけでそんなとか弱すぎだろ」
「なんだとこの野郎!」
「やんのか?」
「ちょ、摂津くん……!」

 摂津くんと男達が近距離で睨み合っている。どうしよう。このままだと絶対喧嘩になってしまう。無茶苦茶なことを言われているけれど、ぶつかったのは私の不注意だ。そのせいで喧嘩が起きるなんて嫌だ。そう思って摂津くんの名前を呼ぶけれど、彼は私の声に耳を傾けない。そんな時どこからかバイクの音が聞こえた。


「君達! 何してるんだ!」

 バイクの音はやがて止まり、代わりに大きな声が聞こえてきた。この騒ぎに駆けつけたのか、どこからか警察官が来たようだ。

「げ! くそっ、サツかよ行くぞ!」
「お、おう!」
「けっ、ビビってやがんのだっせー」
  
 そして男達は警察を見て、焦ったようにバタバタと去って行く。そんな男達の後ろ姿を見て摂津くんは吐き捨てるように言ったんだ。






「摂津くん、ありがとう」
「おー」

 その後、来てくれた警察には事情を話し、「女の子1人なんだから人目のつくところを歩いてねー」と軽く注意を受けて終わった。摂津くんはさっきのこともあって、私を家の近くまで送ってくれるとのこと。お言葉に甘えて今私達は一緒に歩いていた。
 摂津くんとは同じクラスだけど、こんな風に一緒に歩くのはなく、そもそも関わること自体がほぼ初めてだ。摂津くんはあまり学校に来ていないし、見て分かるよう彼はヤンキーと言われる人だ。反対に私は学級委員をやっていて、自分でも言うのも変だけど真面目な部類だと思う。正反対だからこそ余計に関わる機会なんてなかったんだ。

「つーか齋藤、俺のこと知ってんだな」
「え、いや同じクラスなんだから知ってるに決まってるよ! むしろ摂津くんが私のこと知ってるのにびっくり」
「は? 俺の記憶舐めんなよ」
「ご、ごめんなさい……」

 さすが摂津くんだ。学校に来ていなくても成績が良いと言われているだけあって、記憶力がすごい。

「別に謝ることじゃねーだろ。つか真面目ちゃんなのに俺と話せるんだな」
「どういうこと!?」
「アンタみたいな真面目な奴にはてっきり怖がられてんかと」
「あ、まぁ、怖い印象はあったけど、助けてくれたし良い人なんだなって思って……」
「はは、良い人って」

 摂津くんは私の言葉がなぜかツボに入ったようで口元を手で押さえながら笑っている。何がそんなに面白かったのか、何か変なこと言ったのだろうか。何が面白いかはよく分からなかったけど、摂津くんってこんな風に笑うんだと少しだけびっくりした。学校では見たことなかったからだ。
 そんな他愛のない会話をして歩いているうちに、私の家の近くに着く。


「摂津くん、もうすぐそこが家なんだ。だからこの辺で大丈夫だよ。本当にありがとう」
「おう、気つけて帰れよ」

 そしてそれを伝え、私達は解散する。摂津くんの背中を見送ろうとしたけれど、「アンタを見送ってから帰る」と言ってくれたので私が先に摂津くんに背を向けては家へと向かったんだ。



 なんだか今日は不思議な日だ。家までの少しの距離を歩きながら、私は摂津くんのことを考えていた。
 これまで同じクラスだったのに、ほとんど関わったことがなかったし、話したのは提出物を出してもらうように声をかけた時くらいだったと思う。その時だって、「へいへい」とこちらを見ず、興味なさそうに淡々と提出物を出すだけだし、そもそも摂津くん自身が他の生徒と絡んでいるところをあまり見たことがない。だから他人にそんなに興味のない人だと思っていた。そんな摂津くんに困っているところを助けてもらって、更には送ってもくれたし、なぜかはよく分からないけど笑ってもいた。

 意外な一面を持つ摂津くん。そんな彼の姿が家に着いてもなかなか頭から離れないのであった。



[*prev] [next#]

[ 戻る ]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -