九条家の1日 | ナノ


多すぎるおもちゃ

 いつも通り仕事から帰宅し、空の寝顔を見て、リビングでひなと他愛のない話をしていた。今日は幼なじみの女友達が家に来たと言っていたので、ひなはそれを嬉しそうに話す。すると「あ、」と何かを言いかけた。


「天くん、そういえばね」
「何?」

 ふと思い出したように言うので何かと思って聞くと、「ちょっと来て」と言われてリビングに隣接する部屋に連れて行かれる。そして部屋に入ると押し入れやその手前にある棚付近に目線がいった。その光景に唖然としてしまう。

「……嘘でしょ。いつの間にこんなになってたの」
「いつの間にか、かな……」

 それは棚や箱に収まらずに床の上に置いていたり、押し入れにまで詰め込んでいる空のおもちゃ達だった。

「今日友達もおもちゃ買ってきてくれて、それで改めて収納してたらすごい量だったんだ」
「……そう」

 確かに見覚えのないおもちゃが増えていて、某アニメのお店屋さんごっこができるやつで、空もきっと喜んだだろう。それにしてもおもちゃがこんなに多くなってるとは思っていなかった。自分達が買った以外のものが多すぎる。

「みんな空のことが好きだから、結構おもちゃとか買ってきてくれるんだよね……」

 ひなの言う通り、家に誰かが来る時は結構な確率でおもちゃを買ってくる。特に陸と楽と龍。陸は空の叔父にあたり、身内だからという部分もあるけど、楽達はこっちが(というかひなが)気を使ってしまうくらい何か買ってくるんだ。
 みんな空のことをとても可愛がってくれているからこそなんだけど、これ以上貰っても場所がなくなるし、与えすぎて甘やかしすぎるのも教育的にいかがなものかと思う。それにボク達だって親として自分達が買ってあげたい気持ちもある。

「とりあえず楽と龍が週末来るから、言っとくね」
「うん、ありがとう」

 ひとまず楽と龍がまた週末に来たいと先日話していたので、彼らに話さなければ。



「ってことでおもちゃとかは買わなくていいから」

 後日、収録が終わって楽屋の中でボクは先日の家でのことを話した。

「なんだよ、それくらいいいじゃねぇか」

 楽は目をぱちぱちさせながら、あまり理解していなさそうだ。

「よくないよ。これ以上増えると置けなくなる」
「それなら引っ越せばいいだろ」
「は? そんなに家狭くないんだけど。てかそういう問題じゃない」
「まあまあ楽も天も。買いすぎもよくなかったね、ごめんね天。でも俺達も空くんが可愛くて、つい何か買ってあげたくなっちゃうんだ。わざとじゃないから許してよ」
「……別に怒ってるわけじゃないし、買ってきてくれたのはありがたかったと思ってるよ。場所の問題もあるけど、色々与えすぎて空にとって楽や龍がなんでも買ってくれる人とかそういう風に思われても嫌だからね」
「はぁ、分かったよ。んじゃまたドーナツでも買ってくか」
「話聞いてた? そんなに毎回買わなくていいんだけど」
「食べ物は置き場に困らないからいいだろ。それに邪魔するんだからそれくらいは買わせろよ」
「はぁ……」

 楽ははじめは納得していなさそうたったけど、話をしていくうちになんとなく分かってくれたようだった。何かを買っていくことは変わらないようだったけど。そんなに気を使わなくてもいいのにな。




△▼△▼


 そして週末、天くんから少し遅くなるとのことだったので先に夕食を食べ終えた私達。後片付けをしていると玄関の鍵が開いた。その音にいち早く気付いた空は玄関に駆けて行く。


「ただいま」
「おかえりなさい、ぱぱ! がく! りゅう!」

 空の弾んだ声が玄関から聞こえる。私も追うように玄関に行き、天くんと楽さんと龍之介さんを迎え入れる。そしてリビングに入ってきてもらうと、楽さんは鞄から袋を出して私に渡してきた。

「ほらよ」
「え? これは……」
「これなら天も怒らないだろ。さっき龍と買った」
「な、なんでしょう……」

 そう言われて中身を確認すると、手のひらサイズの箱が2つ入っていた。これはスーパーによく売っている、箱の中に少量のお菓子とランダムにプロマイドやらカードやらが入っているやつだった。パッケージは空が好きなヒーローのアニメのもの。

「! ヒーロー!」

 空は私の手に持つそれを見て、目を輝かせる一方、天くんは呆れたように楽さん達を見る。

「いつの間に買ってたの。買わなくていいって言ったのに」
「悪いな、お前がトイレ行ってる間に龍と買っちまった。やっぱり邪魔するのに何も持って行かないのは性に合わねぇ」
「天、これカードなんだよ。これくらいだし、場所にも困らないねって楽と話したんだ」

 天くんは溜め息をつき、「こないだのこと分かってるんだか分かってないんだか」とぼそっと呟く。 規模は違うけれど結局何かを買ってくれる楽さんと龍之介さんに申し訳ないと思いつつ、「いつもありがとうございます」と伝えてその箱を空に渡した。

「がく、りゅう! ありがとう!」

 嬉しそうにその箱を受け取る空は、満面の笑みで2人を見上げる。

「おう。早速開けるか?」
「うん!」
「何が入ってるか分からないのがワクワクするね」

 そして空は楽さん達と一緒にソファーに座り、箱の中身をわくわくしながら開けている。

「わあ! スーパーヒーロー!!」
「お! レアカードだ! やったな空!」
「空くんすごいよ!」
「へへへ」

 どうやらレアカードが当たったようで3人はとても嬉しそうにしていた。空に負けないくらい喜んでいる楽さんと龍之介さんを見て私は思わず笑ってしまった。

「全く仕方のない大人達」
「結局また貰っちゃったね」
「……本当、空に甘いんだから。でもあれくらいならありがたく貰っとこうか」
「ふふ、そうだね。楽さん達に子どもができたらお返ししなきゃ」
「全部に返すのは無理だろうけどね」

 隣にいる天くんもまた、呆れたような、だけどどこか嬉しそうにふっと笑って空達の様子を見ていたんだ。


「がく、りゅう、なにする?」
「そうだな、こちょこちょでもするか」
「こちょこちょ!? まけない!」
「お、じゃあ一緒に楽に勝とうね!」
「なんで2人がかりなんだよ! おい天も来い!」
「やだ。ボクはご飯の準備してるから龍と空で楽やっつけて」
「おい!」

 そして天くんと一緒に、空と龍之介さんにこちょこちょをされる楽さんを見ながら3人分のご飯の準備をする。時々天くんが「空と龍、頑張って」とわざとらしく言うものだから、可笑しくて笑ってしまった。
 後日、陸くんが家に来た時に同じような箱を買ってきてくれた。楽さん達に「空があのヒーローのカード入りの箱、すごく喜んでた」と聞いたらしい。だけどその箱はヒーローのものではなくて、アクセサリーが入っている女の子用の箱を間違えて買ってきたのはまた別の話。


prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -