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 不器用な幼なじみ2

「ん……?」


 朝登校し、上履きに履き替えるために下駄箱を開けると一枚の紙があった。これはなんだろう。ご丁寧に封筒に包まれている。不思議に思ってその封筒を開け、見てみると、そこには一行の文が書いてあった。なになに。


『昼休み、裏庭に来てください』

 差出人は特に書いていない。今時手紙で呼び出すことなんてあるのか、と驚く反面、逆に何用なんだろうか。昼休みに裏庭か。面倒だけど別に予定もないや。なんて思いながら紙を鞄に仕舞おうとした時だった。


「ねぇ」
「!!」

 後ろから声がしたのだ。突然だったからびっくりしたものの、すぐに声の主はわかった。天だ。
 あれ、今日は委員会があるから先に行くって言ってたのに、なんで私と同じタイミングで下駄箱にいるんだろう。

「び、びっくりした……天、今日委員会じゃなかったの?」
「そうだけど、誰かさんが門の前でこけるのが見えたからからかいにきた」
「げっ……」

 ……確かに私はさっき校門の前でこけた。ほんとにつまずく程度だったから、怪我とかはなかったけどそれを天に見られてたなんて。それをからかいにきたなんて最悪だ。楽しそうにニコッと笑う天だったけど、私の手元の紙を見て、途端に怪訝な表情になった。

「……なにそれ」
「あ、ちょっ」

 そして瞬く間に手紙を取られてしまった。あれ、この流れ、なんかこないだもあったような……。手紙を見た天は、すぐに内野も読んだのか、睨みつけるように私を見る。

「……行くの?」

 決して大きくはない低い声。なんとなく怒りが混ざっているような気がした。

「う、別に昼休み用事ないから……」
「は? 馬鹿なの? 用がなかったらどこの誰かも分からない奴のところに行くわけ?」
「な、そんな言い方……! 名前書き忘れただけかもしれないし、大事な用事だったらどうするの!?」
「名前書かないくらいなんだから、ひなにとっては大事なことじゃない」

「そんなっ、……天には関係ないでしょ!」

「、ちょっと」

 なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ。そんな決めつけたような言い方をされ、ましてや何もしていないのに怒られなきゃいけないんだ。天には関係ないのに、とやけに苛ついた私はそれだけ言い捨てて、天の横を通り過ぎた。
 ーー天に焦ったように呼び止められたけど、そんなこと気にしないで。





「あの、手紙なんかで呼び出してごめん。ずっと好きだったんだ……!」

 昼休み、手紙通りに裏庭に行った私は俗に言う告白というものをされたのだ。
 え、どうしよう。まさか告白されるなんて思ってもみなかった。それも同じクラスの、高山くんにだ。そういえばこないだもご飯に誘われたし、あれ、もしかしてそれってそういうことだったのか。

「え、えっと……」
「手紙とか、自分でも恥ずかしかったんだけど、こないだその、九条にラビチャ消されたって噂を聞いて」
「あ、はは……」

 なるほど、だから手紙だったのか。それなら合点がいく。確かに先日高山くんからのラビチャのトーク履歴は天に消されてしまった。とはいえ、どうしようか。この告白は正直受けられない。高山くんのことは友達としてしか見ていなかったからだ。

「あ、っと、気持ちは嬉しいんだけど、その」

 告白されるなんてこれまでほとんどなかったので、返事がうまく返せずにいると、背後から聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

「ねぇ、何してるの」

「……天!?」


 その声に驚いて振り返ってみるとそこにいたのは間違いなく天で。なんで天がいるの。何してるの、なんてこっちの台詞なんだけど。そんな天は、怪訝な表情をしながら私達と少しずつ距離を縮める。

「天、何しに……!」

 朝のことと言い、今といい、何しに来たの。そう言いかけた時には、天は私と高山くんの間にいた。

「あのさ」
「! な、なんだよ」

 天は高山くんを強く睨むように見ていて、高山くんも睨み返しては天に言葉を返している。すると天は私の肩をひいて、躊躇なくこう言ったんだ。


「この子はボクのだから」

「、え……」

 その言葉に誰よりも驚いたのは紛れもなく私だった。思わず私は間抜けた声を出してしまう。
 なにそれ、「この子はボクの」ってなんなのさ。トクン、とこないだのように心臓がまた鳴り響いた。

「……行くよ」
「え、あ、ちょっと!」

 そして天は一度私の肩から離れたと思ったら、今度は私の手首を掴んで校舎へ向かい出す。残された高山くんに去り際に謝り、私は天について行った。


「天、天ってば!」
「…………」
「最近変だよ、どうしたの……?」
「…………」

 天に話しかけても彼は黙ったままだ。天はずっと私の前を歩いているため、彼の表情を見ることができない。

「ちょっと、何か言ってよ……!」

 黙り続ける天に少しイラっとした私はもう一度話しかけると、ついに天が立ち止まり、話し出した。


「いつになったら気付いてくれるの」
「……え?」

「いい加減に……っ」

 天は立ち止まって、でも私の方は向かずに苛ついた声色をして呟くように言っている。
 なんのことを言っているのかわからない。だけど私の手首を掴む天の手は少し力が強くなり、肩も震わせていて、怒っているようだ。チラりと見える表情も、眉間に皺を寄せて、とても険しい。

「天、あの」
「……もういいよ」

「え……?」

しかし天はそれだけ言うと私の手を離しては私から離れていく。

「天、待ってよ!」

そして素早く歩く天に、声をかけたけど、聞こえていないかのように無視されてしまったんだ。


「っ…なんなの……」

 もういいって何。どうしてそんな風に言うの。この子はボクのって、気付いてって何。どういう意味で言ってるんだ。それだけ聞けば彼が自分に好意を持ってるんじゃないか、と思えてしまう。でも私達は幼なじみだし、ずっとそうだった。それ以上でもそれ以下でもない、そう思ってたのに。だめだ、意味がわからない。そんなことをぐるぐると考え続ける私は、彼の背中を見ることしか出来なかったんだ。


 その日から、天の様子はおかしくなった。
 いつもほぼ一緒に登下校していたのに、誘っても断られ、たまに天のクラスに行っても、彼は私のことを見ようともしなかった。天に避けられて、胸が締め付けられるようだ。苦しい、悲しい……。でも、そんな感情を気のせいだと自分に言い聞かせ続けたんだ。

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