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 不器用な幼なじみ4

「……天」
「…………」
「ねえ」
「…………」

 無言で私の手を引き続ける天は、学校から出ても手を離してくれず、足を進めていた。唯一離してくれたのは靴の履き替えの時だけで、履き終えるとまた手を掴まれては帰路につく。歩きながら天の名前を何度か呼ぶけれど天からの反応はない。
 このまま家までこの感じなのだろうか。彼の後ろ姿を見上げながら歩いていると、ある角で曲がり出す。

「? どこに行くの……?」

 もしも家に帰るのなら、ここでは曲がらない。不審に思って聞くが案の定答えなど帰ってくる訳もなかった。そのまま天について行くと、どこか懐かしい道を歩いていることに気付いた。あれ、この道は――

 再び角を曲がって、砂の道を歩き、屋根のあるベンチについた。そう、ここは小さい頃によく天と遊んでいた公園だったのだ。懐かしいと感じたのは束の間、天はすぐに私の手を引き寄せてベンチに座らせた。

「座ってて」
「え、」

 そしてようやく手を離してくれたけど、天は座らずに背を向けてどこかに行ってしまう。

「ちょ、どこ行くの!」

 声を掛けるけれど、天は私の言葉には答えずに公園を出て行ってしまった。追いかけようかとも一瞬思ったけど、それよりも今は連れ出されたのにどこかに行かれて呆然としてしまった感情が勝り、ぽかん口を開けて天の背中を見ることしかできなかった。
 全く、天は何がしたいんだ。まさか私を連れ出すだけ連れて帰ったりなんかはしないだろう。だったらなんで学校からずっと手を掴まれてたんだって話だ。ベンチに座りながら天のことを考えていると、突然頬に冷たい感覚が走った。

「わっーー!?」

 突然の感覚に肩を震わせ、俯いていた顔を上げる。冷たい感覚の正体は、いつの間にか背後にいた天が手に持っている小さいペットボトルの飲み物だったんだ。

「くすっ、驚きすぎ」

 天は私の反応が可笑しかったのか笑っている。天の笑顔を久しぶりに見だけれど、なんだかうまく見れない。

「び、びっくりしたよもう!」
「はいはい。抹茶ミルクでよかった?」
「! 買ってきてくれたんだ、ありがとう。お金……」
「いらない」

 どうやら天は飲み物を買ってきてくれたようだった。天は私に抹茶ミルクを渡すと、隣に座る。

 私が抹茶ミルクを好きなこと、覚えててくれたんだなあ。そう思うとなんだか嬉しい。


「…………」
「…………」

 そして飲み物を飲みながら私達の間には沈黙が続く。聞こえるのは子ども達が遊んでいる声と、自分が抹茶を飲んだ音が体内に響いているくらいだ。

「………て、「あのさ」

 沈黙を破るように天の名前を呼ぼうとすると、同タイミングで天から話しかける。何? と聞き返そうどしたけど、それよりも先に天がまた言葉を続けた。

「キミはいつから口説かれるようになったの」
「え、口説かれ……?」

 口説かれるとはなんのことだろう。身に覚えがなく、横を見て天の方を確認するけれど天は真顔で正面を見ていた。そしてひとつ溜め息を吐いてから話し出す。

「はぁ……気付いてないとかありえない。クラスの男子に告白されて、八乙女楽に口説かれたでしょ」
「それは、別に……」
「ひなは一体どこまでボクを振り回せば気が済むわけ? ボクはあと何年ひなを想い続ければいいの?」
「え……?」

 天は確かに言った。「私を想い続る」と。正面を見ていた天はその言葉を言い終えると、顔を私の方に向け、目が合う。その真剣な顔と瞳は私の心臓を弾ませるのは十分な要素だった。

「ねえ」

 天は私を呼ぶ。この状況と、天の真剣な表情で心臓がバクバクといつもより余分に鳴っていてうるさい。

「な、に」

 心臓がうるさくて、視界は天しか見えなくなる。震える声でなんとか言葉を返すと天は真剣な表情で、どことなく熱が籠った瞳で、言ったんだ。


「ボクは、ひなが好きだよ」


 その言葉にまた心臓がどくん、と高鳴った。さっきまで聞こえていた子ども達の声が聞こえなくなる。時が止まったような感覚に陥った。

「幼稚園の時からずっと好きだった。なのにひなは気付くどころか他の男に好かれるし、ボクが告白された時なんておめでとうとか言うし、ボクがずっとどんな気持ちだったか分かる?」
「、あ……」

 天が私のことを好きだったなんて。信じられないのと、嬉しくて恥ずかしくてむず痒い。そんな感情になり、私は言葉が出てこなくて何も言えずにいると天は「固まりすぎ」と言ってふふっと笑って私の頭を撫でた。あれ、でもそれなら気になることがある。

「な、んで、私と話してくれなかったの」

そう、ついこの間まで天は私と話してくれなかった。私のことを好いてくれてるなら、「話したくない」なんて言うのは矛盾しているのではないか。そう思って聞くと、天は少し罰の悪そうな顔をして言った。

「……ごめん。ひなが気付いてくれなくて八つ当たりした」
「、なっ……」
「それにひなに受け入れて貰えなかったら幼なじみの関係が壊れるとかいろいろ考えてたらイライラしてたかな」

 私の頭を撫で続け、眉を少し下げて自嘲気味に笑う。笑った後、その手は止まり、また天は真剣な顔つきに戻った。

「ひなはさ、ボクのことどう思ってるの? ただの幼なじみ? それとも少しは男として意識してくれてる?」
「わ、私は……」

 天に聞かれ、私は一度彼から視線を逸らす。天のことをどう思ってるか。ずっと幼なじみだと思っていた。だけど天が変な態度取ってきてドキドキして、なのに拒絶されて悲しくなった。これはきっとーー。
 八乙女先輩と話したおかげで何となく自分の感情に予想がついた私は伏せていた目を上げて話そうと決意する。


「……天と話せなくて寂しかった。天と一緒に学校に行ったり帰ったり出来なくて悲しかった。あとね、八乙女先輩に言われたんだけど、その……天に彼女ができたら嫌だ」
「だから多分、その、天のことが好き、かもしれない……」

「………!」

 少しずつ、だけどきちんと自分の気持ちを伝えて私がそう言うと、天は目と口を開けて驚いているようだ。すぐにハッと我に返ったのか、今度は天が私から視線を逸らした。天は手の甲を口元に当てていて、顔が赤いようだ。

「あれ、天……?」
「っ、見ないで」
「え、天ってば照れて」
「うるさい」

 どうやら天は照れているのかそれを言うと少し不貞腐れているように見える。そんな天が可愛く見えて、思わず笑ってしまった。

「ちょっと何笑ってるの」
「い、いひゃい」
「笑うのが悪い」

 私が笑うと天はムスッとした顔で私の頬を引っ張った。私の伸びた顔を見て満足したのかクスリと笑って引っ張るのを辞める。


「……それで? ボクと付き合ってくれる?」

「、うん……」

 優しい顔をする天の問いかけに、改めて照れくさくなりながらも私は頷く。そんな私を見て満足したように笑ったのだった。





 そして翌日、天と久しぶりに一緒に学校に行く。すると道の途中で偶然八乙女先輩と会った。


「おー、仲直りしたか?」

 先輩はニヤニヤと笑いながら私達を見ている。それに対して天は少し睨みつけるように先輩を見返した。

「……この子はボクのだから、口説いたり手を出したりたら許さない」
「ははっ、別に最初から口説こうとなんてしてねぇよ。喧嘩したって聞いたからつい、な。おかげで仲直りもできたんだから良かっただろ?」
「何それ。余計なお世話だよ」

 先輩の行動の真意を聞いた天は、少し不愉快そうにしてから「行くよ」と言って私を歩かせようとする。天はまたスタスタと先を歩いてしまったから、私は先輩にお礼を伝えて、また天を追いかけては一緒に学校へ向かったのだった。




「あ、そういえば」
「何?」
「ひなさ、ボクのこと好き“かもしれない”って言ったよね。そのうちかもしれない、じゃなくて絶対好きって思わせるから覚悟してね」
「えっ……」
「何その顔。ほら行くよ」
「わ、待って天、手……!」
「手を繋ぐくらいいいでしょ? ボクは彼氏なんだから」


fin

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