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 不器用な幼なじみ3

 ーー天のばか。もう知らない。

 先々週のこと。どういうわけか天から拒絶の言葉を吐かれ、避けられるようになってしまった。その次の日やまたその次の日も私は天に話しかけてみたものの、私の目を見ずに彼は「予定があるから帰れない」「用ないなら話しかけないで」……終いには「ひなとは話したくない」なんて言われてしまった。そんな風に言われてはこちらとしてももう話しかけられないし、話しかけたくもない。

「じゃあもう話しかけないから! 意味分かんない、天のばか!」

 それだけ言い捨てて私はその日から天に話しかけなくなった。なんなの、あんなに乱しておいて、そんな風に言われるの。意味分かんない、もう知らない……!




 それから1週間以上経つ。こんなに天と関わらないのは今までで初めてだ。あんな風に言われてイラついた私だったけど、じゃあ話しかけなくなったからイライラしなくなったかと言われると、全くそんなことはなかった。むしろモヤモヤするし、悲しい。何回か家で泣いてしまったこともある。
 だって幼稚園からずっと一緒で、家も近くて、時間が合えばいつも一緒に登下校してていて、最近態度がちょっとおかしかったけど、それに対してむず痒い気持ちになったりもして。なのに突然冷たくされて、天のことが分かんないよ。


「ーーこれで今日の委員会は終わりだ、お疲れ」


 そんな日々を過ごすある日、今日は委員会があった。前に立つ委員長の八乙女先輩の言葉で今日の委員会は終了だ。周りも徐々に帰り始めている。さて、私も帰ろうっと。荷物を持って教室を出ようとした時だった。

「あれ、今日あいつは来ないのか?」
「あいつ……?」

 八乙女先輩に呼び止められたのだ。あいつと言われ、思い当たる人物は1人しか思い浮かばなかったけど、反射的に聞き返す。

「ほら、九条天だっけ? いつもお前のこと迎えに来るじゃねぇか」
「っ、知りません天なんか……!」

 やっぱり予想通り天のことだった。最近のことがあって、私は少しだけ声を荒らげてしまう。そんな私を意外そうに見た後、先輩は変わらずに話してくる。

「喧嘩でもしたのか?」
「っ、別に」
「素直じゃねぇな。先輩が話聞いてやるよ」
「………」

 さすが先輩といったところか、最近不仲なことがお見通しなようだ。八乙女先輩とは委員会でしか関わることはないけれど、責任感があり、後輩の面倒をしっかり見るとても頼もしい先輩だ。
 話したら少しモヤモヤが取れると思ったのか、それとも、イライラした気持ちを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。私は少しずつ八乙女先輩に最近の出来事を話し出す。

「……天に、嫌われました」
「は? あいつあんなにお前のこと……。って悪い、何かしたのか?」
「何かしたつもりはないんですけど……」

これまで幼稚園からずっと一緒にいたこと、クラスメイトの男の子のトークを消されたこと、「この子はボクの」って言ったのにその日から避けられてしまったこと、そんな風に言われて変な気持ちになって、なのに避けられて悲しくなったことーーー……私はここ最近のことを全て話す。


「へぇ、それで? お前はどうしたいんだよ」
「………こんなの嫌です。嫌われたくないし、一緒にいたい」
「なんでそう思うんだ?」
「それはその、天とはずっと一緒にいて、それが普通だったから……」

 いつも一緒にいる、それがずっと当たり前だった。そう答えると、先輩は頭に手を当ててため息をついている。

「はぁ……あのな、もし九条に彼女ができたらお前が一緒にいられるとは限んねぇぞ」
「かの、じょ……」
「あいつ綺麗な顔してるからな。結構モテるって聞くし、告られたりしてんじゃねぇか?」
「………」

 もし天に彼女ができたら、なんて考えたことがなかった。天はいつも一緒にいてくれたから。でも確かに天は意地悪だけど、綺麗な顔をしていると思う。前に噂で天に告白した女の子がいるって話も聞いたことがある。その時は確か「天にも彼女ができるなんて!おめでとう!」と言ったけど、天にすごく嫌な顔をされたし、断ったと聞いた。
 でも今は? 今、もし天が告白されていて、もし仮にそれを受けてしまったらーー……。想像してズキっと心が痛くなった。嫌だ。天が他の人と一緒にいるなんてそんなの嫌だ……!

「っ……」

 考えたらすごく辛くなり、私は俯いた。どうしてこんなに悲しくて苦しいんだろう。考えるとなんとなく答えが浮かび上がってきて。

「(はぁ、やっと気づいたか。ってあれは九条天。なんだあいつすげぇこっち睨んできやがって。……ああ)」

「なぁ」
「えっ」

 そんな俯く私に、突然先輩に手を掴まれて、ぐいっと肩を寄せ付けられる。急に近付いた八乙女先輩はニヤッと笑みを浮かべ、青い綺麗な瞳と目が合った。先輩は校内イケメンランキング1位に選ばれるくらいの人だ。そんな美形な人とこんな近距離になるなんて、とっても心臓に悪い。

「せ、先輩!? あの、何して……」

 さっきまで気分が下がってしまった私だけど、先輩の行動に不覚にも心臓が跳ねてしまった。待って、近いし、その顔面で近付かないでください……! と私が慌てふためいていた、その時。


「何してるの」
「!」

 久しぶりに聞こえた声。


「その子から離れろ」

「天……」

 振り向くとそこいたのは、とんでもない血相で私達を睨む天だった。

「よう幼なじみ」
「離れろって言ってんだけど、聞いてるの?」

 先輩はニヤッとして挑発的な顔で天を見ている。天はすごい勢いで私達の方に向かって来て、先輩の手を掴んで私から引き剥がした。

「はっ、何も言えねぇ幼なじみがよく言うよ」
「うるさい、あなたには関係ない」
「おい待てよ」

 そして天は私の手首を掴み、教室から出て行こうとしたけれど、先輩が呼び止めて、天の足が止まった。振り向いて先輩を睨み上げる天に対し、先輩は変わらず挑発的な笑みでこちらに近づく。

「何」
「あんまり素直になれないならな、俺がこいつ口説くぞ」
「!」

 そして先輩は天の肩に手を置き、天の耳元でとても小さな声で何か言っていた。先輩の声は聞こえたけど、廊下や校庭から他の生徒の声も聞こえるからか、なんて言ってるかまでは私には聞こえなかった。でも天は先輩を睨み上げ、明らかに怒ってる。

「そんなことボクがさせない」
「できるならやってみろよ。いつまでも意地張ってんじゃねぇ」
「っ、分かってる! ……ひな行くよ」
「わ、ちょ……!」

 そして天は感情的になったまま、早歩きで教室を出て行って、私はそんな天についていくことしかできなかった。
 待って、状況がついていかない。先輩に話を聞いてもらってて、そしたら急に先輩に肩を抱き寄せられて、後ろに天がいて、そんな天は今とても怒っている。戸惑いながら先輩の方を振り向くと、さっきまでの挑発的な表情ではなく、いつもの頼もしい笑みを浮かべて私に向かって手を振っていた。「頑張れよー」と言ってる声も聞こえる。これはもしかしなくても、先輩に仕掛けられたのでは……。


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