百中編 | ナノ
01 

「モモ! おーきーて!」
「んー……まだねむいよー…」

 時刻は午前8時、百の家にて。ベッドで眠っている百に声をかけるが、彼はまだ眠そうで目を開けようとしない。

「Re:valeは午前からお仕事なんでしょ?時間ですーっ!」
「わあ! お布団取らないでー!起きるー!」

 なかなか起きない百から布団を取り、渋々と起きてもらう。肌寒い時期になってきたに加え、昨夜の行為もあり、百は上裸の状態だ。布団を取られたら寒くて起きざるを得ないだろう。
 昨夜のことを思い出すと、身体に熱が走る気もするけれど、「明日は8時に起きる!」なんて昨日言ってたくせになかなか起きない彼の姿を見て、愛おしくて思わず笑みが出てしまった。

「さ、朝ごはん作ったから一緒に食べよ!」
「食べる! オレ、結芽のごはん大好き!」

 やっと起きた百にそう言えば、今まで眠そうだった様子は嘘かのように元気よく動き出し、リビングへと向かった。





「結芽、起こしてくれてありがとう! 朝ごはんも美味しかったし、モモちゃん朝から幸せ〜!」
「ふふっ、よかった。お仕事頑張ってね!」
「うん、結芽もね! ……あ、そうだ。明日ユキの家でMOP鑑賞会と新曲作りするんだけど、良ければ結芽も来ない?」

 朝食を食べ終え、ぎゅーっと私を正面から抱きしめた後、支度をしつつ私に言った。
 そうだ、明日はMOPーーーMusic Of People「大衆のための音楽」が開催される。Re:valeも始めは出演予定だったが、若い世代の為に、とのことでRe:valeは辞退をした。一方、最近注目されているグループZOOLも辞退したため、今回はIDOLiSH7とTRIGGERが競い合うことになるだろうと言われている。

「ええ、なんかそこに私がいたら場違いじゃない……?」
「そんなことない! ユキも絶対良いって言うし、おかりんも呼ぶ予定だよ! 結芽が来てくれたら明日も会えるし、モモちゃんハッピー!」
「むむ……」

 誘ってもらえることは嬉しい。けれど私も岡崎事務所に所属しているとはいえ、新曲のこともあるしなんだか申し訳ない気持ちにもなる。
 しかし申し訳ないという私の気持ちを吹き飛ばすように、にこっとモモちゃんスマイルで話す百。口元から見える八重歯がより可愛らしさを増していた。

「うー、予定的には大丈夫だけど、申し訳ない気もするから私からも千さんに確認してからにしようかな!」
「ん、わかった。来れそうだったら教えて」

「もちろん! ……ねぇ百」
「なに?」


 ただその笑顔を見て、ふと思ってしまった。
 そんなふうに笑う百だから。百のことが分からない時があるんだ。



「……無理、しないでね」


 急に出てきた言葉。これまで楽しい、幸せな会話をしていたが、何故か言わずにはいられなかった。

ーー最近の百は様子がおかしい時がある。なにか私に隠していることがあるなんて分かってるんだから。
 そう思っていたことが何故か今、急に込み上げ、言葉に出てしまったのだ。


「! ……無理なんかしてないよ。モモちゃん、結芽と一緒にいれて幸せなんだから! じゃあ結芽、行ってきまーす!」

 私の言葉に一瞬驚いているようだったけど、すぐにいつもの表情に戻った百は、ちゅっと私の唇にキスを落とす。
そうしてバタン、と玄関の扉は閉まり百は仕事へと向かって行った。




「………」


 百が出て行った玄関を意味もなく見続ける。

 ……百が私に何か隠しているような気がしたのはいつからだろう。

 明確には覚えてないけれど、あけぼのテレビ記念50周年記念パーティーくらいからのような気がする。あのパーティーには様々な芸能人の他、ゲストでRe:vale、IDOLiSH7、TRIGGERが呼ばれていた。
 私も岡崎事務所所属のモデルとして行かせてもらったのだか、その中で千さんは星影事務所と、そして百がツクモプロダクションの月雲了さんとひっそりと話していたのは嫌に記憶している。

 そもそも芸能界の中で、ツクモと星影はかつて二大帝国と呼ばれていたほど大きいものである。まだそこまで大きくない岡崎事務所は、何かされたりしないようにと百がツクモと、千さんが星影と交友関係を築いているおかげで芸能界でバランスを取りながら最前線で芸能活動が行えているのだ。

 ただそれから間もない頃、ツクモプロダクションの新社長が月雲了さんになると聞いた。私自身は月雲さんとはあまり関わったことがないが、なんとなく感じるものがある。
 なんだかあの人は、怖い。
 人を人と見ていない、アイドルというものに対して良い感情を持っていない故、何かをしでかしそう、そんなようなーーー…。


 何度か気になって百や千さんに月雲さんとどうなのか、と聞いたこともあった。

「了さんは良い人だよ! 結芽ってば心配しすぎ、そんなにモモちゃんのこと好き? オレは大好きだけど!」
「うん、大丈夫だよ。結芽はその分他の事務所との交友は頼んだよ」

 百にも千さんにも、なんとなくはぐらかされたような気がした。けれど、「この人達はこれ以上なにか聞かれることを望んでいない」……そう感じた私は、その時はそこまで深入りはせずにいて、気づいたらMOPの時期になっていたんだ。



 思い返していくうちに、どくん、と心臓が嫌に響いた気がした。どうしたんだ一体。最近になってこんな、なんだか嫌な予感がするなんて。

 さっきまで、百と一緒にいて、すっごく幸せだったのに。



 普段は思わないのに、今日はなんだか嫌な予感がしたんだ。

 どうか、どうか百が無理をしませんように。
 今日が無事終わりますように。……どうしたんだろう私は。




「……あ、私もそろそろ行かなきゃ」

 ぐるぐると考え続けていた私は、気づいたら仕事の時間が近づいていた。行かなければ。今日は撮影だ。撮影終わってタイミングが合えばRe:valeの楽屋に寄らせてもらおう。撮影場所の建物はRe:valeの収録先と一緒だった気がするし。

 よし、と気を取り直し、百の家にお邪魔をしていた私は軽く荷物をまとめた。


 肌寒い時期になっているはずなのに、変に汗をかいていた私は自分のハンカチでそれを拭い、仕事へと向かったのだ。


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