「名前さんが今考えてること、当ててあげましょうか?」

「………!」


私の頬を包んでいた右手を離し、得意げな表情を浮かべる顔の前で虎丸君は人差し指を立てた。


「ずばり!………あ、でも普通に言ったんじゃ面白くないですからね、クイズ形式にしましょっか!」

「えっ…」


本当に私の本心を見透かされたのかと緊張していた所に、まさかのクイズの登場で思わず拍子抜けした声が洩れてしまった。

…やっぱりこういう無邪気さに溢れた所は、あの頃と全く変わっていなくてなんだか安心する。

むしろ今の方が無邪気かもしれない。

そんな虎丸君からの出題を私は素直に待った。


「いち、俺と一緒に洗い物をしたい
 に、俺と一緒に風呂に入りたい
 さん、俺とキスしたい
 よん、俺と…セックスをしたい」


さあ答えはどれでしょう!と言い、白い歯を見せながら笑ってみせた。

私は思わず大きく目を逸らす。

全て当てはまっているために正直、返す言葉のない私はしどろもどろな反応しか出来なかった。

口から出てくる言葉は最早言葉ではない、あーとかうーという言葉で…きっとすでにこの反応が彼にはどういった意味を持つか理解できているだろう。

そんな冷静なことを考えながら、やっと虎丸君の目を見れた。


「答えはわかりましたか?」

「そっ そりゃあ私が考えてることだもの…わかるわよ…」


この言葉で虎丸君から出題された選択肢に答えがあると肯定された。

ゆえに目の前の彼は満足げな笑みを浮かべ、私の回答を待っている。

私は小さく、本当に小さく深呼吸をした。


「いちからよん、全部よっ!」


私の素直な回答に虎丸君の目が一瞬だけ見開かれた。

恥ずかしい、穴があったら入りたいとはこのことだろう。

今自分は、10年間付き合っているにも関わらず自分からは一度も性行為に誘ったことがない相手に、初めて誘ったも同然なのだ。

こんな…こんな女、虎丸君はきっと嫌だよね なんて考えが浮かび上がり、なんだか目頭が熱くなる。

どうしよう、泣いちゃうかもしれない―――



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