静まり返った店内を見渡し、私は一つ息を吐き出した。

今日も無事に何事もなくお店終了。


「名前さん、後片付けは俺がやっておくんで名前さんは先に風呂でも入っててください」


泡立ったスポンジとその泡のついた食器を手にしながらこちらへ振り向き、優しい口調で虎丸君が言った。

いやいや、まさか任せっきりにして一人でのほほんとお風呂に入るだなんて、さすがに無理だ。

それに…私はもっと虎丸君と一緒にいたい。


「やだ、一緒に片付ける」


淡泊でしかも拒否を示す私の反応に虎丸君は機敏に動かしていた手を止め一瞬眉をひそめ、しかしすぐにいつもの自信たっぷり気な表情を浮かべた。

釣り上がった口角を見るに、何かとんでもないことを言い出すのは見え見えで。

そして案の定、私の予想は的中する。


「じゃあ名前さんは今一人でゆっくり入るのと、俺と一緒に店の後片付けをして…そして俺と風呂場でヤるのはどっちがいいですか?」


………意味がわかりません。

まあ、どっちにしろ今夜は疲れたんで一回はヤりたいんですけどね!なんて無邪気な笑顔を浮かべながら付け加えた。

疲れてるんなら寝た方がいいと思うんだけど…。

怪訝そうに自分を見つめる私を見て、虎丸君は手についた泡を洗い流すと水を止め、体をこちらへと向けた。

そしてエプロンで軽く手を拭くと、その大きな手で私の頬を包み込む。


「今夜はキスだけにしてあげますから、風呂入ってきてくださいよ」

「……あげます、って…」

「? やっぱりヤっちゃいます?」

「………」


虎丸君の質問に言葉が詰まる。

やっぱり一応、彼のことは私も大好きで…そりゃあキスしたいとも身体を重ねたいとも思うし、実際そういった行為を行っている時は本当に幸せで。

でも、今までそういうことを自分から求めたことがないから、いつも彼のペースについて来たから…もしそこで自分からやりたいと言ってしまったら、虎丸君がドン引きしとしまうんじゃないか。

そんな考えがあったから、返事を返せなかった。



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