「名前さん、8番さんへお願いします!」

「はーい」


店は閉店前だというのに、幅広い年齢層のお客さんたちで今日も賑わうここ、虎ノ屋。


「お待たせいたしました、A定食になりますね!」


虎丸君に渡された料理を笑顔でお客に出せば、厨房から私の名前を呼ばれたので駆け足で彼の元へ戻った。
そしてまた、湯気を立てる美しい料理を渡され、私は今か今かと待ちわびるお客にそれを差し出す。

虎丸君の料理を美味しそうに食べる人達を見ると、ついつい自分の頬も緩んでしまう。


「名前さん」


注文を受けたものをすべて作り終えた虎丸君が、お客を眺めていた私の隣に立つと肩を叩いて名前を呼んだ。
私は「なあに?」と言いながら、視線を上へと向ける。

10年前は私よりも小さかった彼も、今やすっかり私の頭1個分以上大きくなってしまった。
身長のことを考える度に、男子の成長の凄さと時の流れを実感する。

虎丸君は薄く笑みを浮かべながら私と視線を交わすと、ゆっくりと口を開いた。


「明日は休みだし、今夜は楽しみましょうね」

「………なっ」


まだ店は営業中だというのに、喉を鳴らしながら笑ってそんなことを言う彼の背中を私は思いきり叩いてやった。

手と、顔が、熱い。ついでに心臓もうるさい。

しかし虎丸君は痛がるそぶりなど一切見せず、それ所か笑顔を向けてきた。


「やだなあ名前さん、何を想像したんですか?顔、真っ赤ですよ」

「っ、うるさい!」

「ふふっ。まだ営業中なんですから…そんな声上げちゃダメですよ。まあ、楽しみにしといてくださいね」


そう言って、彼は歩みだしトイレへ行ってしまった。

ああいう小生意気な所は、年を経ても全く変わっていない。
私は彼の背中が閉められる扉により見えなくなるまで、ぼんやりと見つめていた。



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