静寂が耳を支配している。さっきまでやかましく鼓動していた私の心音が嘘のようにしずまり返って今はただ緩やかにその動きをやめようとしている。暗闇の中で一瞬翻った閃光は私を目掛けて一直線に、赤く濡れた残光を描きながら突き立てられた。腹が、焼け付くように熱い。堪らなくなって崩れ落ちた脚を生暖かいどろどろした液体が伝っていくのがわかった。私の血だ。
「しょうがねぇやつだよな、ほんと」
「俺、いつかお前に言ったはずだぜ。あんまり他人を信用しすぎるなってな」
「よりによって俺を信用しちゃうんだからさ。ほんと馬鹿なやつだよ、お前」
なんで。声にならずに唇だけで言葉にする。腹から引き抜かれたナイフは確かに新堂の手に握られていた。新堂のシャツは私の血で真っ赤に濡れてぬらぬらと照り返している。まさか、そんな、うそ。頭がぐるぐるする。新堂は密やかに言葉を続けた。
「俺、ずっとお前のこと鬱陶しいやつだと思ってたよ。馬鹿みたいに正直で鈍臭くて、お前みたいなやつはいつかこうして騙されて終わり、いつもそう思ってた」
新堂。唇を動かしてもやっぱり声にならない。傷口はどくどくと脈打って暗い教室の床にどす黒い血が広がっていく。生臭い鉄のようなにおいが充満していた。もうなにも聞こえない。時計の音も、自分の息遣いさえ。視界が滲んで歪む。今頃泣いたって遅いのに。これは私が愚か者であったが故の罰なんだろうか。こうしていちばん信頼した人に裏切られるのが私にはお似合いだとでも言うのだろうか。
「……馬鹿だよな」
静寂を引き裂くように、静かな声が耳に入ってくる。視界がじわじわと暗闇に飲まれていく。
「俺のことなんか、俺みたいな殺人者のことなんかなんで信じたんだよ。なんで頼ったんだよ」
どんな表情かはもうわからない。でも声はわずかに震えていた。
「……だって、」
私は最後の力で笑顔をつくる。 
「新堂は、わたしの、ヒーローだったから」
私は目を閉じた。力が入らない。もう、限界。倒れ込んだ私の体を誰かが抱きかかえるように支えた。暖かい、生きている者の体温が私を包む。ああ、なんだかすごく安心する。  
「大馬鹿だ。お前も、俺も」
薄らぐ意識の中ではっきり聞いたのはひどく切ない声だった。
 
(これが愚か者への罰だと言うなら、甘んじて受け入れよう)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -