小説 | ナノ

 ぶつっ……。
「不思議かい?自傷行為、とはちょっと違うんだよ、コレは」
 ハイエロファントが心配そうに本体である花京院を見ている。マスクをつけている形状のため表情はよくわからないが、何せ産まれたときからの付き合いだからスタンドの考えもなんとなく分かる。果たしてスタンドに独立した思考があるかどうかは疑問に思うかもしれないが、花京院にとってはあると思うというよりないわけがないという考えを持っている。
 ハイエロファントが傷口のある耳を見つめている。血をティッシュに吸わせ、消毒したピアスをはめて鏡を見てみると、赤い石が揺れてきらりと光った。
「どう、似合うかな?……似合うようになるはずだよ、これで。公子に似合う僕になった」

 翌朝の校内は花京院のピアスの噂で持ちきりだった。あの花京院が親にもらった身体に傷をつけた。規則を破って制服の丈を変えた。しかし今までの素行のおかげか、指導室呼び出しは免れているようである。
「あ、あの。花京院くんっ」
 いつも花京院の周囲でキャァキャァと姦しい女子生徒が少しおどおどしながらこの変貌振りについて尋ねる。
「どうしたの、急に。制服の改造とか、ましてピアスだなんて……花京院くんらしくないっ」
「僕らしいってなんのことだい?僕は元からこういう人間だよ。優等生を押し付けられるのに少し疲れただけさ」
 女子生徒の一部は涙を浮かべて側を去った。しかし花京院にとって周囲を取り巻く女子は何てことのない、路傍の石同然の存在だ。嫌われようが呆れられようが自分には関係ないので勝手に噂でもしてくれ、としか思っていない。
(僕は公子に見てもらえればそれでいい。さあ、君のいう“相応しい”僕を見てくれよ)
 姿は少し変わったが相変わらず勉強はトップの成績だしスポーツはできるし、学業に影響がないならばと教師陣は皆花京院のイメチェンに目を瞑った。一時は遠ざかっていた女子生徒も、ワイルドな感じが素敵だとまた黄色い声をあげ始めた。しかし、公子は何も変わらない。授業中は教科書に挟んだマンガ本に夢中だし、休憩時間は友人とのおしゃべりに夢中だ。
(公子……何故振り向いてくれない)

 花京院がピアッサーを購入するに至った経緯は一週間前の放課後のことだった。その日中に両親に渡さねばならないプリントをクリアファイルごと机の中に忘れていたことに気がついたのは下校途中。慌てて学校に引き返すと、誰もいないはずの自分の教室から声が聞こえてきた。品のない言葉遣いと遠慮のない笑い声から、扉を開けずとも中に公子とその友人が残っていることが分かる。
 物を取ってすぐに帰れば邪魔になるまいと思い扉に手をかける直前、自分のことについての話題が聞こえてきた。
「花京院とかどうよ」
「イケメンすぎて無理じゃね?てかアイツ、クラスのどの女子より美人じゃん」
「言えてるー」
 どうやら好みの男子のタイプについての話らしい。気になる女子の気になる男子とはどういったものなのか、気にならないわけがない。手は扉の取っ手の直前で静止したまま、意識全てを聴力に注いだ。
「公子的にはどうよ」
「花京院?」
「そうそう」
「住む世界違いすぎてありえない」
「やっぱそっかー。高嶺の花すぎるよね」
「ってーか、アタシはああいう真面目クン苦手っていうかさ。兄貴がああいうタイプだからよく比較されて辛かったんだよね。アイツの隣いたら、やっぱ自分がダメ人間だって思い知らされるから正直好きじゃないってより苦手だわ」
「公子が自分のことそんなべらべら喋るの珍しいね」
「そんくらいきついってこと。さ、変な空気になったから帰りにゲーセンよってぱーっと遊ぼうや」
「賛成ー」
 椅子が床を擦る音が次々に聞こえ、花京院は慌てて廊下を走り抜けた。



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