小説 | ナノ

「もう、やめて……これ以上は……」
「しないわけないじゃないか。いいじゃないか、私“なんか”って簡単に自分を卑下するような、大した価値のない女性なんだったらそこまで惜しむ必要もないだろう。君はそうでも僕は欲しくて欲しくてしょうがないんだ、だったら僕にくれよ、君を」
 ああ、だから花京院はこんなにも泣きそうな顔をしていたのかと公子は理解した。
 花京院がキャンプの日程やクラスメイトとの食事会を簡単に放り出すのを見ては、悲しい気持ちがあった。自分のせいで皆と仲良くなるチャンスを放棄させているのではという罪悪感があった。
 だから、今なら分かる。花京院は公子がほしくて、なのにそばに近づくと「私なんかよりもあちらの女性の方が」と言われてしまう。公子が己をを卑下してしまうのは花京院にとっては自身のせいなんじゃないかと傷つく部分があったのだ。
(私たち、同じことをしていたんだ)
 互いに気遣いあっていたはずが、傷つけあい、見えないダメージに耐えきれなくなった結果こうなってしまった。花京院をこうも暴走させたのは、自分の無自覚。公子に原因がある。そうなると、公子に出来る償いとは?
「……ごめんね」
 その一声で、花京院が今まで公子に訴え続けていたものがようやく通ったのだということが伝わった。だが、気持ちが通じ合うにはもう遅すぎたのかもしれない。それでも花京院は手を止めざるを得なかった。
「謝ってほしいわけじゃない。僕の方こそごめん。どうかしてた」
「花京院くんは、その……続きを、したいの?私と」
「……したいよ。ずっとそう思ってたし今だってそうさ」
「あ……のさ……さすがに、その、お風呂も入ってない状態はどうかと思うんで……というより、キスすらしてないし!?私たち……だから、その……」
 公子の妙な態度に、花京院は押さえつけていた手を思わず緩める。しかし自由になった手はばたばたとさせるだけで花京院を押しのけたり引っぱたいたりするつもりはないようだ。むしろ、抵抗する気配がない。
「公子ちゃん?」
「あ、あのね!ちゃ、ちゃんとお付き合いしてからというかなんというか、その、順番にやらない!?!!!?!?!?」
「……付き合って、くれるの?だって、さっき……」
「その。さっきまでは、その。あの。これ、一から説明しないとだめ?」
「うん。聞きたい。ちゃんと、僕のこと好きになってくれた気持ちの経緯を、言葉にしてほしいし君の声で聴きたい」
「……とりあえずその、みんなのとこ、戻ろっか」
「うん……僕たち、これから時間はたっぷりある、よね」
「も、もうすぐ受験だけど」
「うっ」

 こうして、犯罪すれすれの事件から大逆転で付き合うこととなった二人であったが、最初が服を脱がせるようなところから始まったにもかかわらず驚くほどに進展というものがなかった。
 花京院には一部過激なファンがいることも知っているので二人が付き合っていることは英子にだけ話すことになり、平日昼間は図書館以外で接触することはまったくなかった。
 休日も休日でたまにでかけたりはするのだが、裸で押し倒すといったところから始めたためかなんだかそういった方向に話を持っていくことが照れくさかったり怖かったりでなんとなく進展を避け続けていた。
 しかしお子ちゃま思考の公子はともかく、思春期真っ盛りの花京院がこの状況にいつまでも甘んじているのにも限界があった。
 なにせ片思いのときから公子のことを想像しては肉体の欲求に直結してしまっていたのだ。手を出していい大義名分があるうで、いつまでもプラトニックな恋愛を楽しめるほど枯れてはいない。むしろそういった妄想は以前よりも過激なものになっていた。
 だが、ひどい手の出し方をして泣かせた手前、もう焦って同じことは絶対にしたくない。
(今度こそ、ちゃんと二人で、同意のうえで、こう………………)
 脳内の妄想を実行できる日が果たしてくるのだろうか。


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