小説 | ナノ

 代々木公園を待ち合わせ場所にすれば、行きかう人を見るだけで待っている時間の退屈が薄れる。彼、ジャン・P・ポルナレフはいつも約束の時間から十分遅れてやってくる。


ジャン・P・ポルナレフ×渋谷区


「レディを待たせるのがフランス流?」
「わーるかったって。まだ日本の電車に慣れてないんだよー」
「いいよ。それじゃあまずは私が行きたいところに付き合ってもらおうかなー」
 まずはやはり竹下通り。特に用事があるわけではないのだが、原宿へ来たのならば何となく通ってしまう。
「わざわざ人ごみ選ばなくてもいいんじゃねーか?」
「やっぱりクレープ食べながら歩きたいじゃん」
「それおやつを食べる理由付けしてるだけだよなぁ」
 マリオンクレープの展示されているサンプルを順番に一つずつ制覇していく。公子のひそかな楽しみだった。甘いものはいいと言ってポルナレフは食べなかったがそろそろ昼食の時間帯だ。
「俺は甘いものよりガッツリ飯くいてーぜ」
「何食べたい?」
「んー。そろそろ和食は飽きてきたんだよなぁ。やっぱ故郷の味がいいかな」
「じゃあ俺のフレンチでもいく?」
「え?公子のフレンチ?何で急に俺なの?」
「そうじゃなくて、俺のフレンチ」
「???」

 漢字は読めないが、公子の言いたいことは分かったようだ。食後に店の看板を写真に撮る。
「なんで写真」
「いや、すごい店名じゃん。これ今度花京院に見せるんだー」
「多分知ってると思う。有名なとこだし」
 二人は再び細い路地を渋谷駅方面に歩き出した。竹下通りは若年層向け、表参道はもう少し対象年齢の上がった店が並ぶウィンドウショッピングストリートであったが、一つ道を挟むとそこはオフィス街である。巨大なビルはどれもこれもただ四角いだけでなく、正面から見たときの顔には個性がのぞく。
「日本の建物っておもしれーよな」
「そうなの?」
「あぁ。あと街中歩いてると急に寺院や神社が出てくるのもびっくりしたぜ。しかも入ってみたらすっげーちっちゃいの」
 しばらく歩くと宮益坂という文字が見えてきた。もう渋谷だ。
「あ、ここのカレー美味しいんだよ。入る?」
「さっき食ったとこだろーが!まだ入るのかよ!」
「余裕余裕。でも食べ放題だからまた今度にしようか」
(こいつクレープも食ってたハズだよな……)

 そのまま坂を下っていくと、比較的新しい複合施設、渋谷ヒカリエに到着した。施設内には無料で見学できる作品展示スペースがある。今は若手陶芸家の作品を展示しているようだ。
「こういうの見るとアジアって感じするぜー」
「どの辺が?」
「この……なんともいえない形といい、地味ぃーな色使いといい……」
(全然わからん)
「公子はこういうの好きじゃねぇの?皆こういうのでティーブレイクするんじゃないの?」
「いや。さすがにこういう奇抜な湯飲みは持ってないかな」
「そうなのか。俺これでも日本や日本人のこと勉強してるんだぜぇ?お前のこともっとよく知りたいからよ。俺はその人のルーツから知りてぇんだ。そうしないと本当に理解しあえないような気がしてさ」
「……」
「なんだよ」
「いや、珍しく真面目なこと言ってるから混乱した」
「この程度で混乱すんなよ!あーもーいい。折角真剣に考えてたのによぉ」
「ごめんごめん。お詫びにここの喫茶店でケーキおごったげるから」
「だから、さっきメシ食ったばっかだろ!?」
 更に西へと歩を進めると、JRの高架下と渋谷駅の文字が見えた。あの有名なスクランブル交差点だ。
「ヒュー、すっげぇ人だな本当!」
「で、どこか入りたいとこある?」
「109!」
「はぁ?十代女子向けのビルだよ?ポルナレフ、十代でも女子でもないじゃん」
「だから、十代女子がいるんだろ?日本のギャルってのはなかなかかわいいからよ、ちょっと目の保養に……」
「却下!!!!!!!」

 流石に歩きつかれた二人は電車で恵比寿に移動した。もうすっかり陽は落ち、ディナータイムだ。
「そういえば昼にフレンチ食べたじゃん」
「うん」
「夜もフレンチだわ」
「えっ!?」
「俺のフレンチ美味しかったでしょ。でもこっちも美味しいし、故郷の味に近いんじゃないかな」
 恵比寿ガーデンプレイスの高貴なたたずまいにふさわしい門構えの店。ライトアップされたそこは「特別な日」「特別な人」を演出する空間だった。その店の名は、ジョエル・ロブション。
「お、おい。ここ絶対ぇ高いとこだろ!お前みたいな会社勤めがほいほい来るとこじゃねぇって!しかもあの言い方だともう予約してんのか!?」
「うん」
「うん、じゃねー!ちょっと待ってろよ、今月カードの限度額まだ大丈夫だったかな……」
「いいの!私がポルナレフのために予約したんだから。だって私のために日本に来てくれて、ずっと一緒にいてくれるんだもん……」
「公子。俺はお前が喜んでくれるなら日本に永住することだって苦にならないんだぜ?お前に無理させるために来たんじゃねぇんだ」
「無理なんてしてないよ。ポルナレフがずっとこっちにいてくれるんだったら、ほしい物なんてないからお金余ってくだけだもん」
「……Merci beaucoup。俺が側にいることをそんなに喜んでくれるなんて、こっちも嬉しいよ。昼はからかったりして悪かったな。今日はお前に甘えてご馳走になるよ。そんで明日からは、お前の手作りの食事を俺に振舞ってくれるか?」
「もちろんだよ。さ、入ろう、ポルナレフ!」


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