小説 | ナノ

「何で目が緑なの?」
 幼稚園から小学校低学年までの間に随分と聞いたセリフだ。母も祖父も緑だからと言えば、何故その二人も緑なのかと聞かれる。出来るだけ分かりやすく説明したところで最後の最後に
「変なのー」
 この一言で幼い承太郎はどっと疲れてしまうのだった。そんな中で、外見なんてものにこだわらないただ一人の幼馴染。
「公子ちゃん、遊ぼう」
「いいよ。サッカーやろっか。承太郎ボールね」
 最初は、自分が人と違っても何も気にせず遊んでくれる女の子だと思っていたが、正しくは「遊んでくれる」ではない。彼女の提案は子供が遊びと聞いて思いつくような内容ではなかったのだ。

 月日は流れ、二人は高校生にまで成長する。
「承太郎!?でかっ」
「公子ちゃんか……」
 小学校に上がる前に引っ越してしまった公子だったが、高校二年に進級する直前、久しぶりにこの街へ戻ってくることになった。彼女の背格好には確かに面影があったが、承太郎はあの頃の名残の一切が消えうせている。それでも公子は昔のまま、外見など気にしなかった。例え喫煙していようが、身長差が昔と逆転してようが。外見というものは公子にとってまったく重要ではない。
「相変わらずダチいねぇんじゃねーの。まーたそのおめめのせいでいじられてんのか?」
「うだうだつるむのが好きじゃねぇだけだ。お前は全く変わってねぇな」
 高校二年のときに現れた、ジョジョに生意気な口をきく転入生の噂はあっという間に広がった。

 それから一年が過ぎようとしている。エジプトから帰国後、母の体調の回復を確認した承太郎は再度自分も無事に生きて帰ってこれたことを安堵した。
 道中、何度かは死を覚悟した。そのときに脳裏に浮かんだのは、永遠に目覚めることのなくなった母の姿と、二度と会えなくなる公子の顔。
(戦いの連続でそんなこと考える余裕はなかったが、俺は他にも貸したものを返してもらってないヤツがいるようだな。あー……自覚するとすぐにでも返してもらいたくなってきちまった)
 玄関の電話の脇からクラスの連絡網を取り出す。主人、と書かれた番号にダイヤルすると、あの声が応じた。
「お前ん家、どこだ。昔から変わってるか?」
「あ?あの頃の家はとっくに売りに出されてるわ。今は学校の近くの新城アパートっつーボロに住んでるぞ。なんだ、遊んで欲しいのか?」
「そう、だな。久々に遊ぼうじゃねぇの」

 ただし、ガキの遊びじゃねぇぜ。

「ひっ……ご、ご……」
 自身の言っていたとおり住まいはかなりのボロアパートで、承太郎が腰を打ち付けるたびにみしみしっと建物全体が軋む音がした。日光で変色したまま何年も取り替えられていない畳の上に、布団もなくそのまま組み敷かれている公子の瞳には涙が浮かび、口からは声にならない謝罪が漏れる。だが、それを言い切ろうとすると承太郎が口で塞いでしまう。
「謝るなよ。ガキのときの借りは今ちゃーんと返してもらってるんだからよ、謝る必要ねぇぜ」
「や、やめ……別の!別の形で慰謝する!あっ……」
 この今にも倒れそうなアパートで一人暮らし。私服もないようで制服のまま出迎えてきたというところから、主人家の家庭環境がよろしくないことが容易に推測できるし、それが公子の人格形成を歪ませることに大いに影響を及ぼしたのだろう。
 そうでなければああも暴力的な遊びに嬉々として興じるわけがない。
「大勢の前でズボン下ろされたときは堪えたなぁ……だが俺は優しいだろ?大勢の前じゃなくて、俺の前だけで下着を脱がせてやることで勘弁してやってんだからよ」
「ズボンは下ろしたけど、何もいれてないじゃん!」
「それは別の分だ。ままごとっつって虫を俺の口に無理やり詰めようとしたな。私のご飯がマズイって言いたいのーとか言って」
「け、結局食べなかったでしょ」
「ああ。だが俺は仮にも女のお前に虫を食わすのはどうよって思う優しさがあるわけだ。だから代わりに、下の口で俺のをくわえることで許してやるっつってんだよ!」
「痛ぁ」
 公子は相当すれた生活をしていたのだろう。濡れていないそこに無理やりぶちこんでも血は出てこないし、ある程度は受け入れている余裕がある。だが、承太郎程の規格外のサイズのものを入れたことはないようで、さすがに苦しそうな顔をしていた。
「あのとき、俺がそうやって辛そうにしてるのを見て笑ってた理由がようやく分かったぜ。やってみるとハマリそうだな、これ」
「他の女でやれ!金魚のフンみてぇにいっつもぞろぞろついてきてんだろ!」
「……おい。俺に……」
 今の一言が何かのトリガーだったのか、承太郎の腰つきは更に荒々しさを増し、公子を傷つけることを目的としたように激しくなった。同時に、公子の腰に赤い手形がつく。
「他の女を抱けなんて言うんじゃねぇ。私だけを抱いてくださいって、懇願しろよ」
 子供の頃は一切気にとめなかったエメラルドグリーンの双眸に、冷酷さが浮かんで見えた。くっきりと、トラウマとして記憶に残る。
「こんな仕打ちはお前にしかしねぇ。お前も、俺以外の男にこれ以上抱いてもらえるとか勘違いしてんじゃねぇぞ。あの頃と同じでいい。俺と“遊ぶ”のは、お前だけでいい」


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