小説 | ナノ

「風呂、使うか?」
「……一緒に入らない?」(私が風呂に入ってる間に電話をするか疑っているから、監視しようとしてるのか)
「俺はもう入った」
「そういうことじゃなくて……」
「一人で入りな」
(よ、よかった。とりあえずは)
 誤魔化す術が見つからなかったのか、公子は一人で体を清めた。無意識に聞き耳を立てて電話していないかどうか確認している。だが公子の思惑とは裏腹に、承太郎は一度も受話器を上げなかったようだ。
 風呂からあがった公子はタオル一枚で部屋への扉を開いた。相当な羞恥心が頭を支配しているがやはり顔や態度には一切出ない。露出した肌と、ドライヤーで乾かした髪を見つめるエメラルドのような瞳が、まるで獣のように見えた。
「本当に、いいんだな?」
「何度も言わせないで」
「悪い」
 承太郎も既に服を取り払った状態で、最後の羞恥と遠慮なのか、大事な場所を下着一枚が隠そうとしていた。が、それを押しのけるように主張する承太郎のそれが、下着の意味を失せさせている。
「……したことあんのか?」
「ないよ。承太郎は?」
「二回程度な」
(あるんだ)
「そういやじじぃから連絡あったぜ」
「え!?」
「何故か念写で連絡してきたんだがな。明日の午後に到着するみてぇだ」
「うん」(捕まったんだろうな。でも私の考えどおり、人質として生かしてるみたいだ。交渉の時間までに私がなんとかすれ……!)
 いきなり敏感な場所に触れられ体が跳ねた。目を見開く公子を見て承太郎がにやりと笑う。
「初めてが俺だと苦労するぜ」
 そういいながら下着を脱ぐと、固さと熱を帯びた凶暴なサイズのモノが現れた。
「他の男じゃ満足できなくなる」
(無理だよ、これ)
「好きだ。旅の途中からずっと……気持ちを伝えようか悩んでいた。お前も、同じ気持ちでいてくれたことが素直に嬉しい」
「……」
「なんとか言えよ」
「あ、うん」(どうして……?)
 今まで承太郎を部屋に繋ぎとめるためにウソがぽろぽろ口からこぼれていたのに、この場面になって敵スタンドが仕事をしない。気持ちにウソをつくことが命令の邪魔になると公子が思っていないせいなのか、この一番肝心なウソは公子の意思で言うしかないようだ。
(せめて……スタンドの術中のせいにできれば自分にも言い訳が立つのに)
「公子。やっぱり怖ぇか?」
「う、うん。承太郎の……ソレが……」
「お前がこんな風にしたんだ。あんなことされて勃たねぇわけねぇだろ」
(どうしよう。承太郎が私の事好きだったなんて……それが、こんな形で露呈するなんて……私はどう接すればいいの?)
 大きな手が公子の両肩を抱き、ベッドの淵に座るように誘導する。座った拍子にタオルを止めている部分が揺れて、最後の砦を剥がし落としてしまった。
「……っ!」
「隠すなよ。見てぇ」
(もうダメだ……承太郎は完全に私が承太郎のこと好きだから誘ったと思ってる。もうスタンドとか関係なく、やっぱり違いますなんて言えない空気になってる……でも……私は承太郎のこと、そういう風に見てない)
 露になった胸の突起を承太郎が口に含む。こんなにも大きな図体をしているというのに、その姿はまるで赤子だ。くすぐったさと恥ずかしさで公子が体を後ろに引くと、後を追うように承太郎の頭もついてきて、ベッドへと押し倒される形になった。自分の体を覆い隠せるほどの大きな背が、公子をベッドに縫い付ける。
「なぁ、好きだって言ってくれよ。いいだろ?」
「……っ」
「公子?」
(敵スタンドのせいに、できればいいのに)
 公子の目から涙がこみ上げ、あっという間にそれは決壊した。承太郎が慌てて体を離そうとするときだけ、意思に逆らって体が動く。離れないでと強くしがみ付く。
(ごめんなさい。承太郎、本当にごめんなさい……!)
 承太郎が頭に手を乗せる。その仕草に、公子も固く閉じていた目をゆっくりと開いた。涙のせいで視界は滲み、承太郎の表情がよくわからない。だが、温かく、優しい手の動きに、公子は安堵のため息をついた。
「無理させちまったみてぇだな。怖いなら今日は添い寝だけでもいい。風邪引くから服は着ろ」
「……うん」
 公子は起き上がって洗面所に置いていた下着を身につける。その一連の行動に、敵スタンドの妨害が挟まれないことに気づいたのは完全に服を着替えたときであった。
(あれ?)
 急いで洗面所を出て承太郎のほうに向かう。彼もまた服を着ており、先ほどまでそそり立っていたモノは平常状態に治まっているようだ。
「承太郎、ジョースターさんの連絡!」(言える!効果が切れた!)
「どうかしたか?」
「何だって言ってた!?」
「敵スタンド使いを二人捕獲したってさ」
「ぶかぶかのパーカーとニット帽!?」
「あ?何だって……どういうことだ?」
「今の今まで敵スタンド使いの攻撃を受けてた。でも今効果が切れたみたい。そいつらがジョースターさんのいるNYに向かっていたから……」
「一旦話を整理しよう」

 時系列に沿って話すと、バイクでNYに向かった二人組みは予定通りジョセフを襲撃するも取り逃してしまう。だがジョセフは、いや、ジョースター家の者ならば戦いそのものを放棄したりはしない。反撃のチャンスをうかがっているところに、スタンド使い同士は惹かれ合うの法則に従いイギーと再開したジョセフは、念写で敵の位置を割り出し、フールの力で相手を生け捕りにすることが出来たそうだ。
 報告のためにホテルに電話しようにも、何度コールしても不在が続く。どうせ承太郎のことだから面倒くさくて出ないだけだと思ったジョセフは念写で連絡をつけた、ということらしい。
 そして敵の頭の中をハーミットパープルで覗き見ると、公子がなにかしらの能力に侵されていることが判明。気絶させて能力を強制解除させたと言うことだ。
「つまり、お前のあの妙な行動は全部敵の能力のせいだってことか」
「……はい」
「……マジか……ダサすぎんだろ、俺」
「ごめんなさい」
「ほんの数分だが、交戦状態になってたことに気づけなかった俺のせいだ。気にするな。それとも、それは俺の気持ちへの返答か?」
「……」
「何とか言え。もう自由に喋れるんだろ」
「わっ、わかんない。今まで承太郎のこと、大事な仲間だと思ってたけど、あんなふうに思ってくれてたって聞かされて……その……」
「ハッキリ言え」
「承太郎の言葉を借りるなら『お前がこんな風にしたんだ。あんなことされてなんともねぇわけねぇだろ』てことです」
「んだよ……だったらあの時そう言ってくれりゃよかったのに」
「だって、あそこでそう言ったらそれが本当に自分の言葉かどうか分からなくなりそうだったもん」
「そうだな。今聞けた方がよかったぜ。服を脱がす手間が増えちまったけどな」
「え、ちょ、そこまでしようとは私……!」
「もうおあずけはきかねぇぜ」
 公子から、好きの言葉が引き出せたのならば、もう承太郎を咎めるものなどないのだから。


prev / next
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -