どうやら私は恋をしたらしい。
奴が視界に入るだけで私の心臓は通常より数倍鼓動が早くなる。
ましてやなまえの笑顔を見るだけで胸が締め付けられるような思いをするのだ。
これは何時からだ。
……ああ、あの時からだった。

石田三成は配布されたプリントをぼんやりと眺めながら追憶する。



それはつい先週の事であった。

掃除当番に当たってしまった三成は、ゴミ袋を片手に校舎裏のゴミ置き場へ向かっていた。


「誰がお前なんかの彼女になるかぁぁあぁ!」


その怒声はどうやらゴミ置き場付近から聞こえてくるようだった。

三成は内心、面倒な事になったと思ったのだがゴミを適当に投棄する事はできない。

皺を眉間に深く刻んだままゴミ置き場の方へ足を踏み出せば、三成の足下まで男子生徒が転がってきた。

どうやら蹴飛ばされたらしい。

視線を上げれば同じクラスのなまえが目を見開いてこちらを見ている。


「…上段蹴りか」

「え、ああ!うん」


いい蹴りだ、と呟いてから成すことを成し、その場を後にしたのだが、今思えばそれから自覚したように思える。


放課後に告げよう。


人知れず三成は覚悟を決めた。




▽▲




どうしよ、恋しちゃったかも。

なまえはほう、と息を吐いた。
視線の先にはぼうっとプリントを眺める石田三成がいる。

この気持ちを自覚したのは、ミジンコ程も思っていない男子に告白され上段蹴りを喰らわせた直後だった。


「いい蹴りだ」


と、誉められた瞬間落ちた。

普通ならば女子らしくないと眉をひそめられる所なのだが、三成は違ったのだ。

乱暴だ、粗暴だと嫌な顔をする輩は多い。
だが三成は違った。

またも恍惚とした溜め息をついた時であった。


ん?


カサリ、と机に置かれた紙が揺れた。
几帳面にキッチリと折られた紙を広げれば、これまた几帳面そうな文字が書かれている。


放課後、中庭にて待つ。


左端には石田、と書かれたその紙はどうやら右斜め前の席のクラスメイトから回ってきたらしい。

興味深そうにこちらを見るクラスメイトになまえは笑顔でお礼を言った。




▽▲




放課後を告げるチャイムが鳴ると、同時に三成は教室から飛び出していった。

なまえも慌てその後を追う。



「来たか」


緊張のせいでなまえは頷く事しか出来なかった。

目の前には涼しげな瞳でこちらを見る片思いの相手がいるのだ、無理もない。


期待、してもいいのかな。


すでに期待してしまっている事を知りながら、なまえは自問自答をする。


「私は貴様を好いている」


なまえはつい叫びそうになった。
勿論喜びからだ。

わたしも、と言いかけた時だった。


「だから私を蹴ってくれないか」


は?
と思わず声が漏れた。


「あれは素晴らしい上段蹴りだった。角度、鋭さ、威力、申し分ない」

「は、はあ」


どこかうっとりとした心地の三成に、正直なまえは幻滅していた。

そんななまえの様子を気にせず三成はどれだけあの上段蹴りに惹かれたのかを力説している。


ふつふつと怒りが湧いてきた。

「わたしを好きになった訳じゃないのね!上段蹴りが好きなんだね!」


死ねばいいのに!
そう叫びながらなまえは上段蹴りではなく、三成にアッパーを喰らわせた。


「そのアッパーもなかなかだな…ッ」


尚も迫ってくる三成を振り切り、なまえは走り出した。




これから三成に付きまとわれるとは知らないなまえであった。

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都様リクエスト
変態な三成、でした!
ちょっと変態というかMみた…いえ、気のせいですよね!?
リクエスト、本当にありがとうこざいました(´∀`*)








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