すう、


規則正しい寝息が三成の鼓膜をくすぐった。

成の足元には、妻であるなまえが幸せそうな顔をして眠っている。

よく眠っているようだ。
気配を消しているとはいえ、起きる様子は微塵もみられない。


「………」


三成は慎重になまえの腰辺りに手を回すと、片手で抱き起こした。


「……っ!?誰な…むぐ」

「騒ぐな、兵が起きる」


まだ眠いのだろう、かすれた声を上げたなまえを布団ごと片手で抱え、もう片方の手で口を塞ぐ。


「三成…?どこか行くの?」

「口を閉じろ、舌を噛んでも知らんぞ」


相当舌を噛むのが嫌らしい、なまえはおとなしく口を閉じた。
それを確認して、三成は音も立てずに廊下を疾走した。




▽▲




二人は馬に乗り、林道を駆けていた。
とは言ってもなまえは三成にしっかりと抱えられているので、馬は一頭のみであった。


ちらりとなまえは三成の顔を盗み見る。
いつもと変わらない、仏頂面がそこにはあった。

こうして三成がなまえを連れ出す事は無いに等しかった。
幼なじみから正室になったとはいえ、三成が他の女を近づけさせず、体裁が悪いがため形だけの正室になったにすぎない。

それでも、それなりに大事にされている。


なまえはそう思っていた。
嫌いな相手を自ら傍に置いたりなど、この意固地な男がする訳も無いと知っていたからだ。

現に暇さえ出来れば、強制的に取らされた休憩の際には必ずなまえの部屋へやってくる。

不器用な愛情表現。


「……なんだ」

「ううん、なんでもない」


視線に気づいた三成が視線だけをこちらに向けた。
舌を噛まないようになまえもすぐ口を噤んでしまう。


馬は軽やかに林道を走っていく。

言葉は無い。
だがそれは、重苦しくない静寂であった。







林から出、開けた丘までやってくると、三成は馬から下りた。
布団にくるまったままのなまえを地面に着かないよう、また抱えて柔らかな青草の上に下ろす。
なまえは裸足であった。

何が起こるのか、なまえがぼんやりとしていると三成がドカリと横に座り込んだ。


「………」


言葉は無かった。
いい加減、三成の真意が知りたくなったなまえが口を開きかけたその時、


「貴様は今日、生まれたのだろう」


ポツリと三成が呟いた。
思い返せば、確かに今日は誕生日である。


「何か着物などを用意しようと思っていたが、貴様の好みが分からん。何か無いのか」

「特に、無いかな。だって前に三成から貰った着物があるもん」

「着物以外は無いのか」


今日はやけに食い下がるなあ、なまえは苦笑した。


「わたしの誕生日を覚えててくれただけで、わたしは満足」

「………」

「睨まないでよ…。あ、じゃあさ、わたしが今一番言って欲しい言葉を頂戴?」


ニコニコとなまえは三成を見つめる。




「なまえ、貴様が現世に生を受けたのも、全て私の隣にいるためだ。離れる事は許さない」


それだけ言って三成は顔を背けてしまう。


「三成、わたしが言って欲しい言葉分かってるのにはぐらかしたでしょう!」

「私に甘言を求めるなッ」



それきり目を閉じてしまった三成の口が、音さえ出ないが五文字の言葉をかたどったのをなまえは見過ごさなかった。



――――――――――
砂蛇様、お誕生日おめでとうございます!!

少し遅れてしまいましたが、どうかお受け取りください(´∀`*)






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