*平安時代パロ
「三成君は言霊を信じるかい?」
「は…?」
遅咲きの桜を手折り、半兵衛は三成に言った。
「非現実的であると思うだろうね、君は」
黙ったまま手酌で三成は酒をあおった。
「僕はこれになまえと名前を付けた、だから今からこの桜はなまえになる」
「…桜は桜なのでは?」
「半分正解、かな。桜ではなまえとあそこの木は同じだという事になってしまうだろう」
「同じではないのですか」
全くもって意味が分からない、と三成は頭を振った。
優しく半兵衛は微笑む。
「僕と君は同じ人間だ、だが僕と三成君は同じじゃない。つまり、竹中半兵衛と石田三成が同一ではないという事になる。であるから桜となまえも同一ではないという事になるんだ」
「…私のような若輩者には到底理解出来ません」
「君は方術師ではないからね」
狩衣の袂から懐紙を出し、半兵衛はなまえと名付けた桜の手折った部品を包んだ。
そして三成に差し出す。
「なまえは君に預けるよ、僕の見立てでは可愛らしい女児になる。可愛がってあげたまえ」
▽▲
「…………」
桜を適当な花瓶に差し、三成は無言でそれを眺めていた。
桜に異変は無い。
だが自分が尊敬する方術師である半兵衛がでまかせを言う訳が無い。
「……なまえ」
ポツリと名前を呟いてみた。
だが、返事がある訳でもなく桜は微動だにしない。
きっと半兵衛様は私をからかったのだろう。
花瓶に背を向け、三成が袂から笛を取り出した時であった。
「三成様」
夜風に甘い香りが漂ってくる。
勢いよく後ろを振り返ると、そこには見たことも無い女人が座っていた。
「…誰だ」
思わず腰の剣に手をかける。
妖の類かと疑って目をこらすが、人魂やら怪しい物は一向に見えてこない。
「なまえにございます、三成様」
「本当になまえか」
「嘘はつきませぬ」
ちらりと花瓶を伺い見れば桜が消えていた。
半兵衛様が仰っていた事はやはり誠だったのか。
半兵衛の方術師としての能力の高さに感激していると、なまえがポツリと呟いた。
「笛を、笛を吹いていただけませんか三成様」
「笛か?」
「はい、半兵衛様のお庭にて吹かれる笛は大変美しいものでした。式となり実体を得た今、三成様の笛をお聞かせ願いたいのです」
「いいだろう」
三成は目を閉じ、笛を唇に当てた。
夜気に笛の音は染み渡り、そこに満ちた空気とさえも調和してなまえの鼓膜を震わせた。
嫋
不意に琵琶の音が響いた。
笛の音と琵琶の音は和音を奏で、周りに流れ出す。
うっすらと目を開いた三成の目の前でなまえが嫋、と琵琶を鳴らしていた。
嫋、弦が弾かれる度に桜の香りが鼻孔をくすぐる。
「なまえは、三成様をお慕いしております」
琵琶の音の隙間からなまえの声が聞こえてきた。
「母様の元にいる頃からずっと、三成様を見ていました。素敵な笛を吹くお方、何度人の身になれたらと思った事でしょう」
三成は笛をそっと下ろした。
嫋、琵琶の音だけが響く。
「それがどうした」
素っ気ない一言だったというのになまえは嬉しそうに微笑んだ。
「半兵衛様に形を頂けてわたしは幸せでございます、三成様これからもお側になまえを置いてください」
「ならば、勝手に枯れるな。そこで琵琶を弾いていろ。…側に置いてほしいならな」
それだけ言うと三成はまた笛を吹き始めた。
なまえも微笑んだまま琵琶を鳴らす。
夜が明けて朝日が照るまで、和音は絶えなかった。
____________
砂蛇様へ相互お礼!
半兵衛と三成を出したのはいいものの…
半兵衛があんまり出てませんね…!
書き直しはいつでも受け付けますので、言いつけてくださいませ(´・ω・`)
本当に相互ありがとうこざいます(´∀`*)