もうすっかり秋終盤だなあ。
神社の境内に余すところ無しといった風に敷き詰められた落ち葉を見て、なまえはそう思った。
ザッ…ザッ
落ち葉をかき集める音だけが辺りに響く。
自分が手を止めれば近くから箒を動かす音がするので、三成はまともに落ち葉を集めているのだろう。
焼き芋をするために必要な落ち葉の量はすでに集め終わってしまったのだが、三成は何故か落ち葉を執拗に掃いているのだ。
「三成、焼き芋出来る位の落ち葉は集まったよー」
三成がいるであろう方向に呼びかけると箒の音が止み、三成その人が大量の落ち葉を入れた袋をサンタクロースの様に担いでやってきた。
「そんなにいらないって、多分」
「少ないよりはいいだろう」
「むしろ多すぎかと思われるんだけど」
バサバサと袋を元からあった山の上から揺すれば、なまえが作り上げた倍の大きさの山が出来上がった。
「絶対、これに火つけたらキャンプファイヤーみたいになるよ」
「燃えればいいだろう」
「さっきから随分と結果重視ですね」
「黙れ。斬滅されたいのか」
三成がこんなにも不機嫌なのには理由がある。
「お、凄い量の落ち葉だな。三成が集めたのか?」
泥の付いたサツマイモを両手に抱え、颯爽と現れた家康の存在が気にくわないのだ。
「うん。三成がほぼ集めてくれたんだ」
「そうか!すまんな、三成」
「私は貴様の為に集めた訳ではない、図に乗るな阿呆が」
今にも飛びかからんばかりの勢いで三成が食ってかかる。
「まあまあ、落ち着いて」
三成、と声をかけようとしたなまえの言葉を遮って、
「ワシの為じゃないとすればなまえの為か、惚れた弱みだな!」
快活に家康が笑った。
「私は人の為に動かんと言っただけだ!断じてこいつの為ではないっ」
「そう照れんでもいいだろう!」
「照れているだと!?ふざけるな!」
ああ、また始まった。
内心呆れながらもなまえは、サツマイモを抱えたまま逃げ回る家康と、箒をまるで刀のように振り回す三成を眺めた。
どうやったらそこまで早く箒を振り回す事が出来るのか、甚だ疑問ではあったのだが秋というのは如何せん日没が早い。
さっさと焼き芋の準備をしてしまおうとなまえは必死にライターを探したのだが、家康が持っている事を思い出した。流石にカチンときたなまえはその場にあった箒を手に取ると大きく振りかぶり、そして投げた。
「うおっ!?」
箒は見事、家康に命中した。
弾みに、ゴロゴロとサツマイモが地面に落下する。
「ふん、馬鹿め」
満足げに家康を見下ろす三成は、地面に転がったサツマイモを回収し始めた。
「日が暮れるでしょ、早く点火しなきゃ!」
涙目になっている家康をせかして、なまえは三成が回収したサツマイモをアルミホイルにくるんだ。
落ち葉の山が燃え盛らないように火を調整するのは三成の役目になっていた。
家康はおおざっぱすぎるし、なまえは少し不器用だ。
最初はなまえがやると言い張ったのだが、三成と家康が必死になって止めた。
消去法で選ばれた三成だったが、几帳面さから未だに炎が猛ることはなかった。
「………」
無言で火の加減を見る三成の横顔に黒い線が一本。
どうやら炭が付着したのを素手で擦ってしまったようだ。
「三成、炭が顔についてるよ」
「どこだ」
「右のほっぺ。…ああそこじゃなくてね」
こっちだよ、と言いながらなまえが自身の頬を指すのだが三成にはうまく通じない。
「三成動かないでね」
火の加減を見る為にしゃがみこんでいる三成の横に並び、顔を両手でホールドし自分の方へ向けながらぐいぐいと拭う。
迷惑そうな顔をする三成を無視して拭き終わったなまえは、
「綺麗な顔してるんだから綺麗にしないとね」
と笑った。
どことなく気まずそうな顔をした三成に小首を傾げるなまえだったが、焼き芋が出来上がったと告げる家康の声に注意をそがれて、結局その表情の意味は聞けずじまいだった。
寒空の下で食べた焼き芋はとても美味しかった。