あ、ヤバい。
なまえは包丁を手に、固まった。
指先を伝う生暖かい感触。それと同時にズキズキと疼く傷口。
無理にヘタなんか取らなきゃ良かった。
傷口から滴る血は止まる気配も見せず、未だにシンクを赤く染めていた。
リビングにいる筈の三成にティッシュを取ってもらおう、とリビングを見れば三成は真っ青な顔をして口元を押さえていた。
「え、三成、具合悪いの?」
うぐっ、と呻いている三成に近寄ろうとすれば後退りされ、距離が一向に縮まらない。
「三成?」
「近寄るな!」
「え…?」
「私を殺す気か!?」
あんまりにも必死な形相で三成が自分を見るので、なまえはうろたえた。
そして気づく。
「あ、もしかして血?」
凝固し始めた血の付着した手を指差せば、三成は更に眉間に皺を寄せた。
「吸血鬼である私にそんなものを見せるな!」
「普通だったら美味しい状況だと思うんだけど…」
「美味しい状況だと?貴様は馬鹿か、血液などいらん!」
死ぬよりは我慢した方がいいのに。
と思ったなまえだった。
結局、血を綺麗に洗い流すまで三成はこちらを見ようともしなかった。
「質問なんだけどさ」
「何だ」
「他の吸血鬼はどうしてるの?」
「………」
知るか、と間髪入れずに返ってくるのだろうと思っていたなまえだったが、違ったようだ。
三成は深刻そうな顔をして黙ってしまう。
「私以外の吸血鬼は早々に人間の生き血を飲むようになった。その方が手軽に生気を得る事が出来るからな。だが」
シリアスな雰囲気を漂わせた三成は、一旦ここで言葉を区切った。
次にどんな言葉が飛び出すのかと、なまえは静かに待つ。
「私は死んでも生き血など飲まない…っ」
あんまりにもシリアスな雰囲気をぶち壊しにしたものだから、なまえはキョトンと三成を見つめた。
「何故飲まなくても生きていけるものを飲まなければならない、自然に頼るならまだしも人間からだと?理解が出来ん」
ぶつぶつと言い始めた三成になまえは、
「よ、ヨーグルト食べる?」
話題を逸らした。
「寄越せ」
「仏頂面で手を出さない。一緒に食べようね」
一緒に、という単語にまんざらでもなさそうな表情になったので、なまえはホッとした。
スプーンを黙々と進める三成の横で、なまえはポツリと呟いた。
「母乳ってさ、血をろ過したものらしいね」
「…ぶっ!?」
「わ、三成大丈夫?」
げほげほと盛大にむせてしまった三成の背をさする。
「…貴様」
「ごめんごめん、気にせずヨーグルト食べていいよ?」
「気にせずにいられるか!」
本気で苛立った三成は勢いよく立ち上がった。
「じゃあ食べないの?」
「………」
どうやらヨーグルトは捨てがたいらしく、三成は穴があくのではないかと思うほどヨーグルトを見つめている。
「あーんしてあげよっか?」
「いらん、斬滅されろ」
スプーンに伸ばした手を叩き落とされ、挙げ句の果てには警戒され、なまえは傷ついたように肩をすくめた。