どういうこと?
なまえは思わず一人ごちた。
原因は目の前の三成の皿にある。
「偏食するのはよくないぞ、三成」
「黙れ、私が何を食べようと私の勝手だ」
家康が苦笑いして言うように、三成の皿には白滝が大量に入れられている。
どうやら白滝が随分とお気に召したようで、先ほどから椎茸か白滝しか食べていない程だ。
「三成、白菜も食べなさい」
「何故だ」
「バランスが悪いでしょ」
「私は元来食を取らずとも生きていけるのだ、いらん」
ぷいと顔を背けてしまった三成に、なまえは「好き嫌いが多い子を持つお母さんってこんな感じなのかなあ」と思わずにはいられなかった。
少し母の気持ちになって三成を見ていれば、視線の意味を感じ取った家康が笑う。
「好き嫌いが多い子を持つと大変だなあ、母さん?」
「そうよねえ、あなた」
「……っ!?」
悪ノリしたなまえの言葉に三成はむせて咳き込んだ。
「はい、みーくん。あーん」
追い打ちをかけるように白菜を三成へ差し出すなまえ。
「た、食べればいいのだろう!?」
たまらず三成は差し出された白菜ではなく、鍋に入っていた白菜を口に放り込んだ。
「反抗期かしら、お母さんは悲しいわ」
「ワシが構ってやれなかったのが原因だ、すまんななまえ」
「いいのよ、あなたの所為じゃないわ」
「いい加減にしろ!斬滅されたいのか!」
三成が本格的に怒り始めてしまったので、なまえと家康は慌てて宥める事となった。
「残りのお汁はうどんにでもしようか」
すっかりと具が無くなってしまった鍋を見てなまえは笑った。
「いいな、出汁が出ていそうだ」
「…悪くない」
うんうん、と頷く家康と三成は大人しくテレビを見ていた。
洗い物を済ませよう、そう思って鍋を持とうとしたなまえの横から家康が鍋をさらう。
「力仕事はワシに任せてくれ」
軽々と汁の入ったままの鍋を持ち、家康はすたすたと行ってしまう。
「ありがとう、家康。じゃあわたしはお皿でも洗いますか」
「…なまえ」
「ん?何かな三成」
「私も手伝ってやる」
だから早くそれを貸せ、と泡だらけの食器を指差した三成になまえは笑顔で手渡した。
ただでさえ狭い台所の、更に狭い洗い場に二人で立っている為、とても窮屈ではあるがなまえはとても楽しかった。
黙々と泡を落とす三成をチラリと盗み見て笑う。
「…何を笑っている」
「へ?」
どうやらバッチリ見られていたらしい。
少し気恥ずかしくなって、なまえは照れ笑いした。
「あのさ、二人で並んでお皿とか洗うのがなんか、ほら…」
「何だ」
「あー、うん、いやですね。誰かと住むとか初めてだから、楽しいなあとか思ってさ」
三成の方を伺い見れば、なにやら真剣に考えこんでいるようだった。
「三成?」
「出来る限り」
一度言葉を切り、三成は手を止めてこちらを見た。
「出来る限り貴様の傍を離れない、と誓おう」
「だから貴様も誓え、私の……」
口を開きかけた三成の言葉を遮るように、
「なまえー。デザートはどうするんだ?」
冷蔵庫から三連プリンを出してきたらしい家康がなまえを呼んだ。
「机に並べておいてーと、ごめん三成、もう一回言って?」
「もう言わん!」
「え、怒った?ごめんね三成」
「知るか黙れ」
何事も無かったように洗い物を再開してしまった三成に苦笑いをして、なまえも洗い物の続きを始めた。