気まずい。
なまえはソファーベットに座る三成をチラリと一瞥して苦笑いを浮かべた。
なまえが通う大学は徒歩十分ほどの所にあるという点はいつもならば嬉しい限りなのだが、今日はとても嬉しいとは思えない。
沈黙が延々続くかと思いきや、チェストに置いてあった携帯が、騒がしい音でメールを受信した事を告げた。
びくりと肩が跳ねたなまえと同じように、三成も突然音を出した携帯に驚いたようで、穴が開くのではないかと思うくらい、凝視していた。
今日は講座、休講らしいぞ。
幼なじみからのメールには、突然休講になった旨がしたためられていた。
徹夜明けの身としては嬉しい限りである。
という訳で今からおめぇの家行くからな!土産は楽しみにしててくれ(笑)
再び受信したメールを読んだ瞬間、なまえは携帯を落とした。
そんななまえに三成が「騒がしい!」と吠えた。
「あばばばばば、三成!」
「…正しい日本語を話せ。私がなんだ」
「今から!幼なじみが!来るの!」
「だからどうした」
「なんでそう堂々としてられるのかなあっ!同居人が出来ましたなんて言ってないのに!」
「一々叫ぶな、斬滅するぞ」
「まるっきり他人事!?」
どうでもいい、という雰囲気で三成はさらりと恐ろしい言葉を言ってのけた。
「とりあえず、三成押し入れに入ろうか」
「…貴様、よほどその首いらないと見える。いいだろう気の済むまで斬滅してやる」
「あだだだだだ、ギブ!ギブアップでっ」
首に手を回され、ギリギリと締め付けられたなまえは苦しそうに、三成の腕を叩いた。
「おーい、なまえ?いないのかー?」
未だに締め付けられた状態のまま、なまえは固まった。
さあ、と顔が青ざめたのが自分でも分かった。
「ちょ、離して三成!」
「………」
三成は無言で更に強く締める。
目の前がチカチカと点滅し始めた時、居間のドアからひょっこりと幼なじみである徳川家康が顔を出した。
どうやら合い鍵を使ったらしい。
「いるなら返事をしてくれ、いないのかと思った…ん?そいつは新しい友か?」
「うんうん、そうなんだ。新しい友…ぐぇっ」
喋ろうとしたなまえの首を締め、三成は言葉を遮る。
「そうか!ワシは徳川家康、なまえの幼なじみだ。よろしく頼む」「…石田三成だ」
家康が差し出した手に無視を決め込み、三成は目をそらした。
どうやら友好関係を築くつもりは無いようだ。
家康も苦笑いで手を引っ込める。
未だに三成に首を絞められたままのなまえは、苦しそうにもがき脱出を試みるが、三成はそう簡単に逃してはくれなかった。
「それにしても」と、家康。
「三成、おめぇ女子みたいに細いな。飯食ってるか?」
ブチ、と何かが切れる音がした。
「家康ゥゥウゥ!貴様ァァアッ!!」
般若の如き顔をした三成が、家康に殴りかかった。
もちろんなまえは解放されたが、その時にしこたま頭を床に打ちつける羽目となる。
「すまんすまん、悪気は無いんだ」
「死ねェ!」
「少し落ち着こうじゃないか、三成」
「軽々しく私の名前を呼ぶなァァア!」
ギャアギャアと年甲斐もなく、室内で追いかけっこを始めてしまった二人になまえがクッションを投げつけるのは、時間の問題だった。