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三成の様子がおかしい。


なまえは首を傾げた。
祭り以来何かがおかしい。

いつもなら暇さえあれば読書にふけっているのに、最近はめっきり本に食指が動かないようだった。

ぼうっと窓の外ばかり見ている。


「ねえ、元就…。みーきゅんがおかしい」

「おかしいのはいつもの事ぞ」

「うん、そうなんだけどなんかこう…覇気が足りない?」

「我は都合がいいがな」


大福を口に放り込み、元就は視線を虚空に漂わせた。


「空気が澱んできたか」


随分と息がしにくい環境になったものだ、元就は苛立たしげに采配を振った。


「わ、いきなり采配振らないでよ!」

「少しはまともによけられるようになったか、小賢しい事よ」

「暴力反対!」


元就はわざとなまえに向かって采配を振った訳ではなかった。
このままでは何らかの被害を及ぼすであろう気を払っただけである。

だが、それはつまり三成にとっては毒になるという事だ。


「三成!?」


気にあてられ三成は昏倒した。


「終幕は程なく、せめて足掻き続けるのだな」


元就はそう言って爪楊枝を大福に突き立てた。




▽▲




「三成君、君はまだ抗っているのかい?」

「半兵衛様…?」


桜の下で半兵衛は悲しそうに笑った。


「君に一つだけ、僕が出来る最後の救済法を教えよう」



ザァァアアァ…


花吹雪が視界を覆い隠した。

半兵衛の言葉は三成に届かない。


何かを告げるように半兵衛の口元が動いて…………。





暗転。





「気づいた?」


目を開ければなまえが顔を覗きこんでいた。


「急に倒れちゃうから心配したんだよ?」

「…大事ない」

「顔が真っ青だよ、貧血じゃないの?」

「何でもないと言っているッ」


パシン

額に伸ばされたなまえの手を三成ははたき落とした。


「…っごめん、余計なお世話だった」


素早く手を引き、なまえは身を翻した。
そのまま足早にリビングを出て行く。

バタンと扉が閉まる音がやけに響いた。


つまらない、意地を張った。


三成は上半身を起こし、自分の手を見やった。

一瞬、その手が赤に染まったような気がして目を見開く。
まばたきの後の手の平はいつも通り青白かった。


「血を、吸えばいいんだ。難しい事ではないだろう?」


脳裏に半兵衛の言葉が蘇る。


「私には、私には無理です…半兵衛様ッ」


いつの間にか本来のサイズに戻っていた元就は、リビングの扉の向こうまで漏れてくる呟きを背に苦虫を噛み潰したような表情を形づくった。





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