21


大学校内で、なまえはついと服を引かれ振り返った。


「あ、風魔くん」

「………………」


こくこくと頷く彼とは最近知り合ったばかりだ。
前髪で見えない目がなんとなく細められたような気がして、なまえはうっすら笑った。


「今日も講座で会えなかったね」

「……………」


頷く。
それから少しそわそわと辺りを見渡して、小太郎はクローバーで作られたブーケをなまえに差し出した。


「凄く綺麗だね。くれるの?」

「…………!」


こくこくと今度は激しく頷き、小太郎はなまえに半ば押し付けるようにブーケを手渡すと素早く踵を返す。
そしてそのまま猛スピードで走り去っていってしまった。

いつもそうだ、小太郎はなまえと校内で会えば声をかけるが突然唐突に去っていってしまう。


「恥ずかしがり屋さん、なのかな」


ポツリと呟いた声に応えるように、どこかで烏が鳴いた。





▽▲





なまえは帰ってきてそうそう、元就の機嫌が悪い事に頬をひきつらせた。


「も、元就…?」

「………」


こちらを見ようともしない元就に涙目になっていると、三成がぐいとなまえの手を引いた。


「…その花はなんだ」

「これ?友達から貰ったんだ、綺麗でしょ」

「…………」


厳しい表情でブーケを見つめる三成になまえは首を傾げる。

「白詰草か」

「クローバーがどうかした?」


意味が分からずキョトンとしているなまえの手からブーケを奪い取り、三成は少し苛立たしげに呟いた。


「花瓶を用意しろ、枯らせるつもりか」


そうだね、とにこやかに笑って花瓶を取りに自室へと戻っていくなまえを見送った三成はブーケを握りしめた手に力を込めた。

しなり、と白詰草が力なく垂れる。


「『私を思い出して』か、花言葉くらいは知っているであろうな」

「馬鹿にするな、それくらい知っている」

「日に戯れ言を申して堕とされた獣風情が酔狂なものよ」


一向にこちらを見ようとしない元就を一瞥し、三成はブーケから白詰草を一本抜き出した。

そしておもむろにベランダ歩みを進める。


「いつ知り合ったかは知らんが」


フ、と口元を歪ませ三成は白詰草をバラバラに引きちぎった。

「貴様のなまえへの思いなど知った事か。横槍は許さない、手を出すと言うのならば斬滅してやる。肝に銘じておけ」


無感情にバラバラにされた白詰草を宙へ放り投げると、三成は素早く踵を返した。


どこからともなく鳥が飛び立つ羽音が聞こえてきたが、三成はもう振り返らなかった。







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