「早に起きよ。日輪はとうに登っておるわ」
横顔をばしりと叩かれ、なまえは飛び起きた。
「あばばばばば…!おはようございますっ」
「うつけが、日輪はとうに登っておると言った筈ぞ」
またもやばしりと頭を叩かれ、なまえは目尻に涙を浮かべた。
ベッド横に置かれていた椅子に腰掛けた元就の顔は不機嫌そうで、なまえは頬をひきつらせる。
「日輪と共に起床する者が全くおらぬとは…」
「ご、ごめんなさい。でもさ、私病人…」
「減らず口を叩くのはこの口か。よかろう、直々に我が削いでやろうぞ」
「ほへんはひゃい、ははひへふははひ」
「聞き取れぬな」
唇を掴まれ、声にならない声で叫んでいたなまえだったが、ハタと気づいて元就の手を剥ぎ取った。
「ももももも元就!」
「煩わしい」
「なんで大きくなってるの…!」
元就自身が当たり前のように座っていた為に分かりづらかったが、いつもの元就であれば椅子に立つ事はあっても腰掛ける事は到底できない。
「これが我の本来の姿よ」
誇らしげに言ってのけた元就の言葉の最中に、ぐうとなまえの腹が鳴った。
「……………」
「……あは」
冷ややかな視線を浴びせられ、更には溜め息までつかれ、なまえは笑う事しか出来なかった。
▽▲
リビングではまだ三成が眠っていた。
寝息はかなり深い。
相当熟睡しているようだ。
「一番不安がっていたのはそやつぞ」
かなりお気に召したらしい雪見だいふくを切り分け、こちらを見ずに元就は言った。
「…腑抜けた面を我に見せるでないわ。痴れ者が」
「えへへへ」
心から嬉しそうに笑うなまえを脇目に元就は時計を見やった。
正午を回った針がまた一時間、時を刻んだのを元就は見逃さなかった。
「我にしてみれば数刻にもならぬ短さよ」
あまりにも小さな呟きはなまえの耳には届いていなかった。
「みーきゅん、心配してくれてありがとー」
眉間に深い皺が刻まれた三成になまえは笑いかける。
「元就も少なからず心配してくれたんだよね、ありがとう」
まさか自分に笑いかけるとは思いもしていなかった元就は、ほんの僅かに目を見開いてからふいと顔を背けた。
「…先日てれびで放送されていた大福で手を打とう」
うへえ、と聞こえてきた声に元就は鼻を鳴らした。
すぐ後に起きてきた三成の機嫌はすこぶる悪かった。