なまえは頬をひきつらせて視線を漂わせた。
視線の先には珍しく眉を下げる家康がいる。
「なあ、なまえ…」
声も心なしかいつもより沈んでおり、その声を聞いたなまえは「あははは…」と乾いた笑いを浮かべた。
同じ部屋にいる三成と元就は我関せず、といった様子でこちらに目もくれない。
「昨日は」
「い、家康の言いたい事は分かってるよ」
「昨日がバレンタインなのにすっかり忘れてたって事、だよね…?」
恐る恐る顔を上げたなまえの前で家康は、さっきと違って朗らかな笑みを浮かべていた。
「覚えていたのか!ならいいんだ」
「毎年の事だからね、いくら忙しかったからとはいえ…。ごめん」
「毎年だからなぁ、無いと少し悲しくなるんだ」
けらけらと笑う家康を見てなまえはホッと息をついた。
機嫌を損ねてしまえば、三成よりも扱いが難しいのが家康だ。
「という訳で今年は趣向を凝らしてチョコフォンデュにしてみました!」
「おお!豪勢だな」
今の今まで隠していたチョコフォンデュをこたつに乗せれば、家康が待ちきれないといった様子で勢いよくこたつに入り込んだ。
どうやら入り込んだ時に三成にぶつかったらしく、
「家康ゥゥウゥッ」
「はは、すまんな三成」
片方は吠え、片方は笑っていた。
▽▲
甘い匂いが充満している。
最初は勢いよく家康に噛みついていた三成であったが、臭気にやられたのか顔面蒼白となって、ソファーベットに横たわっていた。
甘いものを好む元就は、気に入ったらしい苺を黙々とチョコに沈めている。
「おーい、三成?」
「…何だ」
腕で目を覆っていたのを少しずらし、三成は気怠そうにこちらを見やった。
チラリとフォンデュを囲む二人を見、なまえはこそりと三成に近づいた。
「三成は意味知らないかもだけどさ」
額にシワを寄せ「何の事だ」と言おうとして三成が口を開いた瞬間、なまえは素早く手に持っていた何かを口に詰め込んだ。
「……ッ!貴様…」
ほろ苦い何かを口に入れられた三成はなまえを睨み、なじろうとしたが口をなまえ当人の手によって閉ざされた。
「三成には本命をあげる。みんなには内緒だよ、絶対に」
いたずらっぽく笑ったなまえを見て、三成はもう何も言えなかった。