びゅうびゅうと北風が吹き、粉雪を巻き上げる。
一面の銀世界、雪原にいつもの三人組はいた。
いつものように家康の発案で富士山の麓までやってきたのだ。
なまえはチラッと後ろの車を見る。
真新しいスタッドレスタイヤをはいたワンボックスカー、家康の物だ。その中にはかなり寒さに弱い三成が閉じこもっている。
先ほど無理に連れ出そうとしたせいで、なまえは散々三成に罵られた挙げ句、頬をつねられた。
まだ赤い頬は寒さの為ではない。
「家康ー…」
寒い、と言う前に「もう少しでかまくらが出来るから待っていてくれ!」と快活に笑われてしまった。
彼はどんな状況でも元気だ。
「雪だるまでも作ろ」
手袋をした手で雪を触っているというのにとても冷たい。
体を動かせば何とかなる、と自分に言い聞かせなまえは勢い良く雪を転がし始めた。
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だいぶ様になってきた2つの雪玉を見て、なまえは満足そうに頷いた。
自分でもなかなかの出来だと達成感に満ち溢れたのだが、雪だるまを作る為にはどちらかを上に乗せなくてはいけない。
なまえは小さめに作った雪玉を持ち上げようとしてみた。
「…んっ!」
ビクともしない。なまえは少し絶望した。
「先程から何をしている」
振り返ればいつもの青白い顔をさらに白くした三成が立っていた。
「いや、雪だるま作ろうと思ったんだけどさ持ち上がらないんだよねえ」
寒くない?大丈夫?と続けようとしたなまえだったが、三成がコートのポケットから手を出し雪玉を持ち上げたので何も言えなくなってしまった。
軽々と雪玉を持ち上げ、雪だるまを完成させた三成は手にこびりついた雪を払って「これで満足か」と言う。そんな三成の手は赤くなっていた。
「三成、手が真っ赤!冷たくないの!?」
「冷たいに決まっているだろう」
「だよね…。じゃあ私の手袋貸してあげるよ、はい!」
「いらん。私は平気だ」
「意地っ張りめ…」
「…………」
「つ、つめたっ!首に冷え切った手あてるのやめてくださいッ」
三成の地味な嫌がらせに涙目になりつつも、気を取り直したなまえはもう一つ雪だるまを作り始める。
「…まだ作るのか」
「うん。さっきのは私で、今度は三成の雪だるまにしようかなあって」
さっきのより大きくしなくちゃなあ、などと意気込んでいると横から三成の手が伸びる。
「貴様がやると不格好になる、私にやらせろ」
「つまりわたしが不器用だと」
「そうは言っていない」
「いいや、言ったも同然だね!女の子はデリケートなんだから」
「…フン」
馬鹿にしたように三成は鼻で笑ってなまえから雪玉を奪い取った。
三成の転がした雪玉の跡が道を作る。
△▼
「三成、この雪だるま斜めじゃない?」
「煩い、黙れ」
三成が作り上げた雪だるまは確かに斜めだった。滑らかな表面が台無しに見える程に、斜めだった。
三成が作り上げる少し前に作り始めた家康の雪だるまと比べると、ますます真っ直ぐでない事が分かる。
「三成の立ち方が悪いんじゃないか?」
「黙れ家康。何故貴様の雪だるまが一番巨大に作られているッ」
「大きければ大きい程いいじゃないか!」
三成が寒さのせいでいつもより過敏になっているにも関わらず、家康は言葉をオブラートに包もうとしない。
なまえは三成の握りしめられた手を見た。
指先は赤くなり、見るからに冷たそうだ。
「よし、かまくらで買ってきたお汁粉食べよう!」
三成の手を自らのコートの右ポケットに攫い、反対には家康の手を突っ込んだ。
「なまえの手は暖かいな!」
「離せなまえッ」
2人の声が風に流れる。
なまえは鼻歌を歌いだしたいくらい上機嫌だった。