袋の中から飛び出した、何かはくるりと一回転をすると、華麗にテーブルに着地をした。
「我が名は毛利元就!天照大神の命にて地上に参じた日輪の申し子なり!」
「………え」
何かを掲げるように両手を天井へ伸ばした茶髪の小人は、そうのたまった。
「…人形?」
「貴様、日輪の申し子たる我をヒトガタと呼ぶか。早々に焼け焦げよ!」
「あいたっ!?み、三成、この子なんとかしてよ!」
「知るか」
その小さな体のどこから出してきたのか、と疑問に思えるような大きさの采配はまたしてもなまえの頭にクリーンヒットした。
「我がわざわざ名乗ったにも関わらず名乗らんとはとんだ阿呆よ、名を名乗れ娘」
「みょうじなまえ、ですけど」
「ふん。平凡な顔に相応しい名よ」
「ひ、人の名前を馬鹿にしちゃいけないっていうのに…!」
「正真正銘の阿呆のようだな」
「み、み、三成…っ」
「私に泣きつくな、自分で蒔いた種ぐらい自分で刈り取れ」
ソファーベットに足を組んで座る三成に泣きつけば鬱陶しそうに引き剥がされた。
相当機嫌が悪いらしい。
「みょうじ、我が力を必要とした理由を申してみよ」
「え、無いよ」
「ならば何故、我は社から引きずり出された」
「家康のおじいちゃんが、何かわたしに良くない気がついてるから払ってもらえって…」
「………」
端正な顔立ちだからであろうか、眉に寄せられた皺が妙に鋭さを感じさせる。
「良くない気、とはあらかた貴様の事であろう、吸生鬼」
「それがどうした」
「随分と弱々しい力よ、我が力の足元にも及ばぬ」
じろり、と初めて三成が元就と視線を合わせた。
互いに牽制しあうような重苦しい雰囲気になまえはたじろぐ。
そして思った。
家康の馬鹿。
家康が元凶でないと分かっていてもそう思わずにはいられなかったのだ。
「天照大神のご意向を無碍にする訳にはいかぬ、我の好きにさせてもらうぞ」
「私に危害を加えるならば容赦はしない」
互いに無干渉を貫く事で利害が一致したらしい、なまえはホッと胸を撫で下ろした。
部屋に損害が出でもしたら号泣するだろうからだ。
「みょうじ」
「は、はい」
「我の本体は銅鏡、最も日が当たる部屋に安置し神棚を設けよ」
ふわりと浮き上がった銅鏡をなまえは慌てて抱えた。
「社には帰らないの!?」
「極稀にしか来ぬ参拝者を待つのには飽いた」
「理不尽!」
三成がうんざりとした表情をしてこちらを見る。
「日毎に餅、もしくは大福を供物として供えよ」
「それから、我は茶を所望する。持って参れ」
なまえ宅に小さな暴君が君臨した新年であった。