困った事になった。
三成は嘆息した。
何故三成が困っているのかを説明するためには、少し時間を遡らなくてはならない。
季節は冬。
しかも今日は冬の一大イベントクリスマスだ。
三成にしてみれば興味も無いイベントなのだが、なまえと家康にとってはそうではないらしい。
前日からせかせかと用意をはじめ、リビングにはクリスマスツリーが玄関にはリースが設置された。
なまえによって準備へ駆り出された三成だったが、何せ冬はもっぱら山の社に引きこもっていたものだからクリスマスが何であるかなどさっぱり分からない。
楽しそうに準備をするなまえを見る限り、楽しむ行事だとは分かったのだが。
さて、いつものようになまえ、家康と共にその行事を楽しむものだと思っていた三成だったのだが想定外の事が起きた。
「家康来れなくなっちゃったんだよねー」
なまえはそう言って笑った。
彼女が言うには、大学で家康に恋愛感情を抱いた一人の為にささやかな演出が計画されたのだそうだ。
わたしは邪魔になっちゃうからさ抜けてきた、となまえは続けた。
家康がいないというのは三成にとって喜ばしい事で、今日は心静かに過ごせるとばかりに思っていたのだがそうではなかった。
ケーキを二人でつつき、なまえが「クリスマスに日本酒ってどうかと思うんだけど」と言いながら出してきた酒に手を伸ばした後が大変だった。
そして、今に至る訳である。
「みーくん、みーくん、みーくん」
「…………」
たしたし、と軽い効果音を出しながらなまえは三成の太ももを叩く。
どうやらなまえには絡み酒の傾向があるらしい、三成が困っているのはこれが原因だった。
「みーきゅうん」
「誰がみーきゅうんだ、名前くらいしっかり呼べ」
「…いじわるみーくんめ」
「それは貴様の被害妄想だ。私は何もしていない」
たしたし、とまたしても太ももを叩かれる。
そこまで力が入っていないとはいえ、何度も同じ所を叩かれると流石に痛みを感じてくる。
「やめろ、倍にして返されたいか」
「いつもみーくんがわたしを叩くのがいけないんでしょー」
太ももを叩いていたかと思えば、今度は頬を引っ張ってきた。
「変顔みーくんだっ」
ぷつりと何かが切れた音がした。
「貴様…っ」
頬を掴んでいた手を逆に掴み、そのまま勢いで引き剥がした。
「斬滅してやる!」
そう言って立ち上がったなまえに対して、三成もゆらりと立ち上がった。
そこからは互いに頬を引っ張り合ったりしていたのだが、三成が結果的に暴れていたなまえを取り押さえた。
両手を片手で捕まえた所で一気に疲労感が押し寄せてくる。
「ちぇ、捕まったぜ」
「酔っ払いはさっさと寝ろ、付き合いきれん」
「よしきた、みーくん寝室までお姫様だっこでよろしく!」
さあ、ずずいと抱き上げてくれたまえ。
にやにやと言いのけたなまえを思わず三成は斬滅しかけた。
「断る、なぜ私が貴様にそこまでしなければならん」
「みーくんは今日限り王子様だからね!」
「…もう日付が変わるな」
なんと!とオーバーリアクションしてみせたなまえに小さく溜め息をつき、三成はしぶしぶなまえを横抱きにした。
「さすがみーくん、かっけーっ」
「落とされたくなければ黙っている事だな」
あいむおーけー、と呟かれた声と同時に三成はベッドへなまえを放り投げた。
そして有無を言わさず布団をかぶせ、足早に部屋から出て行く。
カツカツとマンションの廊下を歩く音が聞こえてくる。
三成は遅ればせながらやってくる天敵に、この腑抜けた顔だけは見せたくなかった。