ザァァアァ…
外はあいにくの雨だった。
ぼんやりと外を眺めていたなまえはため息をつく。
そんななまえを三成はチラリと一瞥したが、すぐに視線を手元の本へ戻してしまった。
「こんな天気じゃ月蝕見れないね…」
「見たかったのか」
「うん」
ふかふかのあざらし抱き枕を背もたれにする三成の横に腰掛ける。
最近一目惚れして購入したそれは今や三成に独占され、なまえが使った事などほとんど無いに等しかった。
ふかふかと柔らかなあざらしの頭に顔を押しつけていれば、頭上から三成の声が降ってくる。
「退け、これは今私が使っている」
「買ったのはわたしだもん」
「目を着けたのは私が先だ」
ぐいぐいと手で押しのけようとする三成に抵抗してなまえは逆にぐりぐりとあざらしに顔を押し付けた。
しばらく無言の争いが続いたが、三成になまえが根気負けしなまえはソファーベットの端へと追いやられた。
「わたしが買ってやったんだから半分ぐらい使わせてくれてもいいじゃないよ…」
「黙れ、斬滅されたいか」
三成が言い出したら聞かない事を最近分かり始めたなまえはやれやれ、と首を振ってせめてもの抵抗だと言わんばかりに三成の太ももに頭を置いた。
「何をしている」
「ひざまくらー…だだだだだ、いきなり耳引っ張るのやめて!」
「不快だ、早々に頭を退けろ」
「あざらしと対価交換というやつだよ、みーくん」
「…………」
「あだだだだ、だから耳は引っ張るものじゃないってばっ」
意地でもどいてやらない、と意気込んだなまえを最初は不機嫌そうに眺めていた三成であったが、諦めたのか数分後には何も言わなくなっていた。
黙々と本を読み進める三成の邪魔をしようと手を伸ばしかけて止まる。
「そういえば今日は家康忙しそうだったなあ」
「…………」
視線が交わる。
どうやら続きを話せと促しているようだ。
「月蝕とか日蝕の日は神様が機嫌を損ねるとかなんとか…」
「だろうな」
三成は鼻を鳴らした。
「平安の世では凶の相、災いの証だと言われていた程だ」
「よく知ってるねえ、三成」
「伝え聞いただけだ、私にとって何の役にもたたん」
なんでも無いように言ってのけた三成になまえはスゴいなあ、と思わずにはいられなかった。
「あらかた、あの阿呆の社では天照大神でも祀っているのだろうな」
「多分そうだと思う。あ、相性とか悪いの?」
「貴様は馬鹿か」
「だって吸血鬼とかって月ってイメージが強いから」
「人間が勝手に抱いたイメージにすぎん」
好んで近寄ろうと思わんだけだ。と口にした三成がどれだけ太陽に近づいていないのか、肌の白さから分かるような気がした。
「そうだよねえ…っくし」
「もう自室で寝ろ。私が眠れん」
いつの間にか本を読み終えていた三成に半ば追い出されるようにソファーベットから転がり落とされ、なまえは涙目になった。
心配してくれてるのかな、と小首をひねったとある一日。