ザッ…ザ…
鳶色の髪に目を持った男は、瓦礫にまみれた大地を一歩一歩正確に踏みしめ、進んで行く。
その男の背には目を瞑り、微動だにしない少女が背負われていた。
「クラトス」
クラトス、そう少女に呼ばれた男は前方を見つめたまま「何だ」と、ただ素っ気なく返す。
「もう、みんなはいないんだね」
「………ああ」
瞑っていた目を開いた少女は、どこか懐かしそうな目で地面を見下ろした。
かつて、この地に存在していた何かを、そこに見るように。
「だが終わりではない。世界樹が寿命を迎えた訳ではないのだからな」
「そうだね、わたしもクラトスもまだ生きてる」
不意に、クラトスは今まで進めていた足を止めた。
そこは先ほどまで歩いていた瓦礫の中ではなく、見上げるほど大きな大樹の根元だった。
「ただいま、世界樹」
クラトスの背から降りた少女が万感の思いを込めて口に出すと、さわさわと大樹の葉が揺れた。
嬉しそうに目を細めた少女の横に立ちすくんでいたクラトスは、少女の体が一瞬陽炎のように揺らいだ事に気づき、眉間に皺を寄せた。
この大きな世界樹により作り出された小さな英雄は、世界樹が弱れば存在が揺らいでしまう位に、脆い存在なのだ。
「体調はどうだ」
「よくなってきたよ、世界樹が頑張ってるからね」
「そうか」
「うん。あと、クラトスのおかげだよ。わたしをここまで運んでくれて、ありがとう」
「………礼には及ばん」
地面から伸びた世界樹の根に腰を下ろした少女の隣に、クラトスは同じように腰掛ける。
「次はどの町に行こうか、まだわたしが行った事の無い町はいっぱいあるんだよね?」
隣でこれからの旅について語り出した少女は楽しそうで、クラトスはよく見ないと分からない位の微笑を零した。
しばらく少女は旅について語っていたが、急に無言になって考え始めた。
どうしたのかと、クラトスは少女の方にチラリと視線を向ければ、少女はポツリと呟いた。
「……全部。全部見て回って、それからは…?」
なるほど、とクラトスは思った。
ディセンダーである少女と介添人である自分は、ほぼ永久に近いような時を生きるのだ。
世界を救う必要が無くなり、同じギルドで過ごした仲間たちがいなくなった今、何かが終わるという事が恐ろしくなったのだろう。
少女はディセンダーである前に一人の人間なのだから。
押し黙ってしまった少女の髪を一撫でし、クラトスは素っ気なさに優しさを潜ませた声音で少女に語りかける。
「一通り旅が終わったのなら、どこか気に入った町にでも住めばいい。また、そこから旅に出る事も出来るだろう」
バッと顔を上げた少女は目を輝かせた。
「クラトスも一緒?」
「お前がそう望むならな」
ずっと望んでるよ!と、元気を取り戻したディセンダーはまた、嬉々として旅の計画を立て始めた。
隣から聞こえてくる「クラトスはどういう所に住みたい?」という声に、クラトスは思案気に視線を漂わせた。
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