「飲もう」
ずいっと、大量のお酒が入ったコンビニ袋を差し出すと、エースはぱちくりと目をしばたたかせた。
「あれ、君ってそんなに大酒飲みだったっけ?」
「気分よ、気分。別に夜なんだし、飲んだっていいでしょう」
テレビに目を移していたエースの横にどっかりと腰を下ろし、乱雑にお酒を机へ置いた。
「やけ酒は旨くないぜ?」
もの珍しげに缶ビールに手を伸ばしたエースをチラリと見て、わたしも近くにあった缶ビールに手を伸ばす。
「やけ酒?随分と自意識過剰なんだね」
「はははははっ、君って素直じゃないよなあ。そこだけは前と変わらなくてちょっと悲しいぜ」
「分かって来たくせに」
「あはは、そうだった」
かこん、小気味いい音をたててプルタブを開けたわたしに習って、エースも缶ビールを開ける。
正直、どの缶ビールが美味しいのかなんてさっぱりだった。
だからこの缶ビールが美味しいのかさえ、わたしにはよくわからない。
コンビニの缶ビール置き場に並べてあったものを、端から買ってきただけなのだから。
「うーん。何だかこれ、安っぽい味がしない?」
「安っぽい味で悪かったね、騎士様に合うような高級なお酒を買うお金は持ち合わせておりませんで」
そう言ってから、ぐいと一口煽る。
なるほど、確かに安っぽい味がするかもしれない。
特に後味がきつすぎる。
わたしが顔を歪めたのに気づいたらしいエースが横でニヤニヤと笑った。
「………なに」
「いーや、何でもないっ。それより、飲もうぜ!」
「どっかの誰かが興醒めするような事を言うからだと思うんだけど」
「あははは、俺にはさっぱり誰か分からないな」
心の中でちょっとだけ毒づいて、わたしは残りを一気に煽った。
……………………
……………
………
缶ビールを数本開けて、わたしはすでにダウン状態だった。
視線の先は定まらず、首もカクンと舟をこいでみたりと泥酔状態の一歩手前、それ位までになってしまっている。
そんなわたしとは正反対に、隣のエースは未だにニコニコとしながら、だいぶお気に召したらしい銘柄の缶ビールを煽っている。
その顔はいつもより少し赤くなっただけで、こいつはザラか。と思わされた。
「なあ、##name_2##」
「うん?」
朦朧としてきた意識の中にスルリと入り込んできたその声は、やけに神妙な声音だった。
「俺は安心してるんだ。ようやくいらなかった余計なものを捨てられて、さ」
余計なもの?と聞き返そうとして口を開きかけてやめる。
「何にも無い、ユリウスもいない。ハートの騎士のエースじゃない、ただのエースとしてこっちに来てもなまえ、君は俺を嫌いにならなかった」
「エースはエースでしょう?」
「うん、まあそうなんだけどさ…。ははははは、やっぱり君は変わらないな」
「エースがエースであるように、わたしもなまえっていう一個人だから、ね」
わたしがたどたどしく呟いた言葉にこちらを見たエースの顔は、初めて本当の笑顔に見えた。
きっと明日はこんなに心穏やかに過ごせないのだ。思いっきり戸惑って、悲痛な声で彼の名前を呼ぶのかもしれない。
それとももしかしたら、わたしは何もかも忘れて、このエースと過ごした日々を、二日酔いの痛みで打ち消してしまうかもしれないのだ。
この心地いい酔いも、次にわたしが覚醒した時には、夢のワンシーンになってしまう。
「なまえ、俺がいたこの日々は夢じゃない。夢なんかで片づけないで、君が、いなくなった俺をずっと、ずっと覚えていてそれから、俺という存在に一生焦がれて、悩んでくれ」
脅迫めいた呟きを最後まで聞く事なく、わたしは意識を手放した。
エースがいなくなるまで、あと一日