ラジオから、流行りの子供映画の主題歌が流れている。
14歳の子供が歌っているというその歌は、まるで今のわたしたちが辿る運命を歌っているようで、それがわたしにとって酷く不快だった。
かちり、と停止ボタンを押したわたしをエースが見上げる。
「あ、今の聞いてたのに」
「……そうだったんだ」
残念そうに口を尖らせているエースも、随分と今の生活に慣れたらしく今や様々な電化製品を使いこなしている。
「ね、今の歌の歌詞、俺たちみたいだって思った?」
「馬鹿じゃないの、帰るんでしょ。元の世界に」
キツく言い放って、さっきのネガティブな考えを即座に追い払う。
ラジオを手持ち無沙汰にいじりながら、何でもない事のようにエースは言った。
「だから違うよ。俺は帰るんじゃなくて、ここで、なまえの隣で死ぬんだ」
「はあ…」
自分は死ぬ、とさらっと言ってのけたこの男にかき乱されるのは何だか癪だったし、昨日聞いた冗談のような話はやっぱり事実なのだと再度実感して、二つの意味でため息をついた。
どうやらこの騎士様は、本当にわたしの隣で死ぬつもりらしい。
「自分が死ぬって、怖くないの」
「怖くない。なまえが傍にいるからな」
エースはよく、わたしが傍にいるから平気、大丈夫だ、と言う。
わたしとエースは二日前に初めて会ったばかりで、そんなに信用されるような関係でも想われるような関係でも無い筈だ。
「ねえ、エース。何で命を縮めてまで、わたしに会いに来たの?」
わたしの疑問は、至極まともなものだと思う。
命を縮めてまで会いに来る価値は、わたしには到底無いように思えるからだ。
「俺はなまえが好きなんだ、向こうにいたときからずっと。本当だぜー?」
「わたし、を。向こうにいたときからずっと…?」
「そう。俺がまだハートの騎士だった時、君は余所者としてハートの国へやってきたんだ。まあ、忘れてると思うけどな、ははははっ」
「あなたみたいな印象に残る人間を忘れるくらい、記憶力が無い訳ないでしょう。それに…わたしはハートの国になんて、行った事がないのに」
そう、そうなのだ。
わたしは一度もハートの国とやらへ行った事がない、生まれてから一度だってこの国を離れた事すらないのだ。
「人違いじゃない…」
何だかモヤモヤとした気持ちになって、わたしは所在なげに床を見た。
ようやくエースを好きになってきたのに。
人違いだなんてあんまりだ…。
……ちょっと待って、わたしは今何を考えた?
わたしが、エースを、好き?
好きになってきたのに?
頭が混乱してきた。
自分の思った事に混乱させられるだなんて、愚の骨頂だ、馬鹿すぎる。
「うーん…。それって、君にとって俺は忘れがたい男、って事かな?あはははは、困っちゃうぜ!」
こっちが本気で悩んでいるというのに、エースはどこ吹く風で爽やかに笑っている。
しかも、余計な勘違いまでしているようだ。
「そうそう、言っておくけど俺は君を間違えたりはしない。俺は道は間違えるけど、なまえの事なら絶対、間違えない自信がある」
真剣な声音にハッとエースを見る。
改まった口調とは裏腹に顔はニコニコとしていて、わたしは一瞬それが本当の、心の底からの笑顔に見えてしまった。
「つまり、俺はもう一度だけでも君に会いたかったんだ。ははははっ一途な男なんだぜ、俺って!」
上手くはぐらかされた気がしないでもないが、わたしは何だかエースがその、昔について触れられたくないように思っている気がして、聞くことができないでいた。
エースがいなくなるまで、あと二日