ぬるま湯




ヒトの体内の水分量は確か全体の六割か七割といったところ。
その水分量が一定量以下に達すると脱水症とか色々ある、ってテレビかなんかで言ってた気がする。俺は目の前の彼女がまさにその状況になるんじゃあないかと少し心配になる。


アンタはここにいる、そう言った瞬間から今まで、何分間も際限なく泣き続ける霊華っちの水瓶は底が尽きないのかな。
吸い込まれるような瞳を潤す透明で、しょっぱくて、暖かいその液体が尽きるころ、布団には大きな水溜まりの跡が出来てた。



アンタはここにいる。その言葉を発する前。
アンタには関係ないでしょって、突っぱねてきた霊華っち。その儚げな笑みは、彼女をどこかへ連れていってしまいそうだったんだ。
そんで、口を突いて出たんだ。ここにいるって。
そう宣言して、彼女の存在を肯定したくて。この場所に繋ぎ止めておきたくて。
綺麗な綺麗な霊華っちの羽衣なんて隠して、天界になんて行かせないんだ。絶対。
なんでこんな強い想いを抱いてしまうのかはわからないけどね。






彼というニンゲンをなんと表現しよう。
なんだか不思議な人。
人の前でヘラヘラ笑って、あたしの思う「ぬるい」笑顔を振り撒く。そのくせ本当に親しい人間との笑顔はとびきり美人。
なんであんなに悲しそうに、ぬるい笑顔を浮かべるんだろう。あんなぬるま湯に浸かり続けてたら心は風邪を引くんじゃない?涼太君。


そんなぬるま湯な涼太君は、今日はとっても暖かかった。ポカポカした。
ここにいてもいい。そんな言葉のポカポカは、あたしの中の棘をあっさり溶かして。
存在意義。あたしの存在意義は、この時の涼太君の言葉だったのかもしれない。
そんな涼太君はぬるくない、暖かい笑顔であたしを見てくれてた。
……おかしいなぁ。さっきまで散々泣いてたはずなのに。暖かい笑顔が、ぼやけて見えないよ。







「り…涼太君……あたしを、助け、て、下さい……」

嗚咽まみれの掠れた声で霊華っちは小さくポソリと言った。



<ぬるま湯>





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