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  貴方の瞳には何が映ったの

朝。
桜が咲き誇る季節だというのに、まだまだ寒さが身に染みる。
クリーニングに出したとはいえまだパリッとした新しい制服は、彼女の身体に対する風を防ぎきれはしなかったらしい。
普通もっと暖かいだろ。なんて思いながら、カーディガンをぐっと引っ張り、少女は学校への道のりを歩く。


肩まで伸ばした黒髪とは対称的な白い肌と濃い青色の瞳。
藍色のブレザーとアクセントの朱色のネクタイを、そしてワインレッドのプリーツスカートを纏う、高く華奢な身体。
藍野霊華は寒さの中でひとり、歩く。


なだらかな坂を登りきった先。今日から霊華が入学する『私立此花高校』は、創立200年の私立高だ。そのため校舎も古臭い事で有名で、中々生徒は集まらなかったが、三年前に改修したお陰で今はは県内外から沢山の生徒が入学している。


『…………。』


無言のまま下駄箱で靴を脱いでいると、ふと人とぶつかり、霊華は手に持っていたメモ帳をうっかり落としてしまった。
「っ、すまない。…これはお前のか?」
鮮やかな赤い短髪と、綺麗なオッドアイが目をひくその少年は、霊華に向けて手帳を差し出してきて。
普通ならここでありがとう、とでも言う場面だが、彼女は

『……。』

あわあわとした様子でもなお、無言のままコクコクと頷き、手帳を受けとると、ペコリと頭を下げてその場を去った。
口許は『ありがとう』と動いていたけれど、肝心の声は聞こえなかった。


彼女は、藍野霊華はごく普通の高校生だ。




喋れない事を除いては。



そんな彼女の去る背中を、赤髪の彼は、赤司征十郎は、しばらく見つめたままだったという。
彼の二色の瞳に映ったのは……




<貴方の瞳には何が映ったの>



 
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