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  就任


バッシュの靴底と体育館の床が擦れあう、子気味のいい音がいよいよ目の前にやってきた。
第一体育館。校内三つの体育館の中で最も大きな体育館のはずだ。バスケットコートだって少なくとも四面以上あったはず……しかし中ではそのコートを全て使用して男子バスケ部員達が練習に励んでいる。つまり

何人いるんだうちのバスケ部は

赤司君を盾に、唖然と中を見つめる私に、彼は150人だよと告げた。
恐ろしい。スタートメンバー5名、ベンチおおよそ15名と見積もっても、レギュラーメンバーに入るのは難しいどころの話ではない。
やはりキセキの世代が集まるのを見越してみな入部してきたのだろうか。しかも見た限り部員の技術やスタミナはそこらの強豪なんて比ではないレベルに高いように思える。中には全中で何度も見かけた、名の売れた選手もごろごろ、そしてキセキの世代。加えて多分無冠の五将もここには存在するという。
何だか恐ろしくて鳥肌がたってきた。


「……!」


ふと見た先に彼がいた。
青い髪を靡かせて、稲妻は光を撒き散らしながらコートを駆け回る。周りの障害をもろともせず、光の速さで駆ける。
その姿は圧巻で、とても素敵なプレーだと思った。基本型からして皆と違うのは一目瞭然だけれど、動きのしなやかさも、豪快さも、目を引くものがある。
これは嫌でも見惚れるだろう。経験者として、マネージャー(仮?)として。
しかしそこでパチリと視線が合った。
どうすればいいか分からなくて、とりあえず笑顔で頑張れ、と口パクエールを送ってみた。ら。
大きく満面の笑みを浮かべた彼は、サービスか何か知らないけれどご丁寧にダンクを決めて見せてくれた。サービス精神は大阪のおばさま並みに良い様で。
そんな大阪のおばさま的ガングロ…もとい大輝君は着地を決めた途端にこちらへ走ってこようとする、がそれを遮るようにけたたましく鳴り響くホイッスルの音色。音源は、お隣の主将様だったみたいで
本人は隠しているつもりだろうけれど、目尻の上がり方からして、不機嫌そうな主将様


ホイッスルが鳴らされて約30秒もしない内に体育館にいた部員全員が走って赤司君の前に集まってきた。主将とはいえ1年生の赤司君にここまで従って、統率の取れた行動が出来るなんて、凄い。しかもこの行動を取る部員達も、相当レベルの高い選手だ。しかもみなが1年生な訳ではない。上級生も何十人といるはずだ。
その彼らがきちんと指示に従い、行動できる。しかも先程見たところ、不満もなく黙々と練習に取り組んでいる。主将へ信頼を置いている。
頂点に君臨する人間への不満もなく、信頼を置いた優秀な人員が努力を重ね、高みを目指す。
素晴らしい集団だと思った。強くて当然だ。



……なんて感心していたため、あたしは周りから注がれる視線に気付くのに少し遅れてしまった。
何なんだコイツは、マネジは募集停止してなかったか、そんな小声が耳を突く。
アウェイでしかない、完全なるアウェイ

「黙れ」

透き通った赤色の声が静寂を招き入れる。

「全中トップレベル選手、藍野霊華が我が部でこの度マネージャーを勤めてくれることとなった。彼女は今事情で喋れないので、主な指示はホイッスルとボードで行ってもらう。
とても優秀な選手だ。彼女のマネジメントにより自らの、またチームの能力向上に努めるよう、練習に励め。」

言葉と共にざわめきが生まれる。先程とは違う、称賛のざわめきが。言っちゃあ悪いがそれは過大評価だ、あたしはそこまで称賛される程のプレイヤーではなかった。二人じゃなきゃ、意味がないプレイヤーだったのに。
先程までどちらかというと邪険にする視線で此方を見ていた部員の人々も、今では期待の視線を向けてくる。
なんというか、赤司君凄い。言葉ひとつでここまで人の気持ちを方向転換させられるなんて。


「以上だ。大輝は残れ。」


解散の声と共に散り散りになる部員。よろしくねー、とケラケラ笑いながらかけていく猫みたいな男性や、 霊華ちゃん頑張ってぇ〜とエールを送るオネエさん(?)を見る限り、歓迎されてるのかな、案外やっていけるかもな、と思えた。
しかしあれ、赤司君何故大輝君を残したんです?
大輝君も意味が分からない様で、え?え?と疑問符を語尾に浮かべながら赤司君の元へと歩いてくる。


コートの隅で赤司君は大輝君へこう告げた。




「大輝、これから何日か霊華の教育係を頼む」



「俺が?……はああああああああああ!?」



<就任>

青峰、教育係になる。





 
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