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  一歩


体育の授業は幸運なことに7時間目だった。
だから授業が終わればすぐ放課後、部活動が支配する時間となる。

とりあえず、赤司君からは、今日から部活には参加しろとのお達しだった。鞄などの私の私物は大輝君がこっそり教室に取りに行ってくれるそうで、なんだか申し訳ない。
しかし赤司君、何故目線を合わせてくれなかったんだ。少し悲しかったぞ畜生。

顔色は、血色も悪くなっていたこともあり、桃井ちゃんと黄瀬君が少しチークを入れたりして目立たなくしてくれて。なんだろう、桃井ちゃんはともかく黄瀬君の手際よい動き。「モデルっすから!!」と言われ納得。そりゃそうか。
格好は、大輝君に借りただぼだぼジャージに赤司君のこれまただぼだぼウィンドブレイカーを念のため重ね着して行くことになった。着膨れが、着膨れが……。
カラフルな皆さんが赤い顔なのも笑いを堪えているんだきっとそうなんだ…。


「霊華ちゃん!!ヤバイよ!!なにこれあざとい!!」


思った矢先に予想外の言葉と揺さぶられる肩。桃井ちゃんは案外物好きなんだな、と思った。


私のことは、赤司君が案内してくれることになり、大輝君以外のメンバーは先に部活に参加することになった。そうしろと部長様からのお達しがあったからには従うしかない。反抗なんて許されない。そんな雰囲気を感じた。


ばいばい、また後でね。
そう言って走る、小さくなっていく皆の背中を見送りながら、私も赤司君と歩き出す。
一歩、また一歩。踏み出す足が泥にはまってぬかるんでるみたいだ。誰かに会ったらどうしよう。あの子達に会ったらどうしよう。怖くて、赤司君の腕を掴んで後ろに少し隠れるような姿勢で歩く。
赤司君は、他のメンバーに比べれば低いかもしれないけれど、十分身長がある。なんだかこの姿勢でいると不格好ではあるけれど、安心する。

このまま誰にも会わずに進めれば…


「あ〜、誰かに思えばビッチちゃんじゃ〜ん
あたしらの青峰君から手引いたと思ったら今度は赤司君な訳?これだからビッチちゃんは〜
ブサイクなの自覚すればぁ?」


すれ違いざまに肩をぶつけられた。相手は、誰かなんてわかっている。
蔑むような、見下すような視線で睨み付けてくるその視線に耐えきれなくて、顔を伏せる。
赤司君の腕を掴む力も強まってしまって。でも赤司君へ迷惑をかけてしまったなと反省する程の余裕もないのだ。
言の葉は、固く尖った、ナイフのような精度であたしの肉をえぐりとる。痛い。痛い。痛い。


「赤司君もさぁ、こんなクソビッチなんかと関わんない方がいいよ?
せっかくのイケメンなのに評価落ちちゃうじゃん
この子だってどーせ面食いだろぉし?」


何も考えられなくなる。違う。違うのに。
声に出来ないむず痒く残酷な哀しみが体を支配して動かない。あふれでるのは塩水だけ。ほろりほろりと、握り締めた赤司君の手の上へと溢れ落ちる。

そこで赤司君が行動にでた。
今までピクリとも動かなかった赤司君が、私の体をぐい、と引き寄せて、抱き止める。赤司君の胸板に顔を押し付けられ、周りが見えないのだ。



「言いたいことはそれだけか?
よくもまあペラペラペラペラ下劣な語句を並べるな
先程のビッチ、ブサイクという言葉はそっくりそのままお返ししようじゃないか。
あとね、この子はこれから我がバスケ部の傘下に入ることが決まっている。もし大切な仲間に手を出したなら、只じゃすまないと思っておいて欲しいな。」


赤司君の言の葉の節々ににこめられた怒りの感情に、ユキ達は何も言えなくなる。
淡々とした声音だけれど、赤司君は確かに、あたしのために、「仲間」のために怒っている。
表情はわからないけれど、ぱたぱたと彼女達の走り去る音が聞こえたたいうことは、相当怖かったんだろうな。

足音が聞こえなくなった頃、赤司君はやっとあたしを解放してくれた。
表情はいつものさらりとしたものに戻っていた。
どうしてあんなことを言ったの、そう口パクで聞いたら

「別に。」

そう言ってプイとそっぽを向いた。
我らが主将様はとてもお優しいようです。


自然とほころぶ口元を押さえながらまた一歩。
今度は泥じゃあない、雲を踏みしめた気分だった。



<一歩>






 
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